12人が本棚に入れています
本棚に追加
本庁から徒歩十分の距離にある、閑静な住宅街の一角・沼影町。こじんまりとした住宅の棟が並び、スーパー、雑貨屋、コンビニと、日常生活が難なく送れる静かな場所だ。
そしてその町の隅に、沼影町墓地公園がある。
毎週月曜日の二十二時。俺はその場所で夜風に当たるようにしている。この沼影町に入ると何故だか幽霊が視えなくなる。だからこの町は、俺の安住の地であった。
墓地公園へ足を踏み入れると、辺りの音は何も聞こえなくなる。そのままサクサク進めば、芝生エリアに入り込み、一つのベンチが見えてくる。昔ながらの木で出来た年季のあるものだ。
毎週月曜日の二十二時、そこに一人の女性が座っている。この真っ暗闇に一つだけ灯る街灯に照らされて、舞台上の女優のように光を浴びていた。
年齢不詳。見た目だけであれば十代後半から、二十代前半。背の中程までありそうな黒髪を二つ作っておさげにし、黒曜石のような瞳はまんまるで夜の星空を映し出す。そして襟元の白いリボンが特徴的な黒の膝丈ワンピースに、白ベルトが付いた黒のパンプス。
彼女は美夜子さんという。苗字は分からない。ただ毎週月曜日のこの時間、墓地公園に出没するということだけが分かっている。
「こんばんは、京平さん」
「こ、こんばんは」
俺に気が付いた美夜子さんは、花が開くような柔らかな笑みを与えてきた。それに胸がギューッと苦しくなる。何でこんな可愛らしい人が、俺なんかと一緒に過ごしてくれるのか。何度聞いても彼女は答えてくれないのだ。
「またご飯食べていないんですか?ダメですよ、そんなんじゃ。刑事さんなんでしょう?」
「まぁ、そうなんですけど••••••」
口篭りながら、彼女から少し距離を取ってベンチに腰を下ろす。美夜子さんは無邪気に両足をブラブラさせて、子どものように身体を左右に揺らしている。
そして唐突に、
「京平さん、何か面白いお話をしてください」
「面白いって言われても••••••。俺、そんなキャラじゃないし」
「何でもいいですよ!事件の詳細とか、思い出せなかった記憶の断片を見付けたとか!何でも!」
近付いてきた彼女に思わず距離を取ると、美夜子さんはプクゥっと頬を膨らませて不貞腐れた。こういうところも可愛らしい。俺は彼女に負け、ボソボソと話し始める。
「吸血鬼とか、興味ありますか」
最初のコメントを投稿しよう!