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「吸血病。好血病とも、ヴァンパイアフィリアとも呼ばれます。これは血液を好んで口にしてしまう、まるで吸血鬼のようになってしまう病気です。多くは自傷行為によって飲むようですが、稀に恋人の血液を飲む人もいるんだとか。原因は主に精神疾患とも言われ、改善にはかなりの時間を要するようですよ」
「つまり、院生はその稀な例に当てはまっていたと••••••」
「ちなみに余談ですが、吸血鬼はこうも言われているんです。――吸血鬼は恋をしてしまうと、その相手の血しか飲めなくなってしまう」
可愛らしさから一転、唇に人差し指を当てた美夜子さんは妖艶な笑みを浮かべた。それには思わず唾を飲み込んだ。この人は••••••こんな顔も出来てしまうのだと。
「日に日に強くなる吸血欲求に抗えない吸血鬼は、最後には相手の血を吸い付くして殺してしまうんです。でも吸血鬼はその人の血しか受け付けないので、吸血鬼も餓死してしまう。相手を生かして自分が飢えるか、一緒に息絶えるか。それは吸血鬼次第ですけど、このケースは見事に共倒れですよね。だって女子大生に抵抗した痕跡はなかったんでしょう?」
「はい••••••」
「ということは、彼女は恋人に喜んで血を提供していたってことです。『彼が異常だ』と知りつつも、愛することをやめられなかった。結果的に死んでしまいましたが、彼女にとっては悪くない結果なのかもしれませんよ。これが本望だ、なんて思っていた可能性もあります」
美夜子さんは俺の前に立ち、手を引いて立ち上がらせると、急に両手に指を絡めてワルツの構えになり、そのまま彼女の鼻歌で踊る流れとなってしまった。俺にはこんな経験はないはずだが、身体は軽やかに動いてくれている。
「恐らく女子大生が死んだのは、発見の四日ほど前かと。院生は定期的に彼女を部屋に招き入れ、血液を注射器で抜き取り、ボトルに入れて冷蔵庫で備蓄していた。それもかなりの量を。彼女に会えない間を凌ぐ為のものですが、直に吸っていた為に歯止めが効かず途中で死んだことにより、それを消費せざるを得なくなってしまったんです。だから一ヶ月しか持たなかった」
俺の手を持ち上げてターンすると、また俺と一緒に踊る。ワンピースのスカートがフワリと広がり、その細く綺麗な脚を見せられた。
「なら付近の防犯カメラに院生が映っているはずでは••••••。降車駅のカメラには誰も映っていなかったんです。だから難航して••••••」
「本物だったら、映らないんじゃないですか?」
「え」
「その院生は病気ではなく、多分本物の吸血鬼だったんですよ。憶測ですが、特定の人間相手には視えるようにしていたのだと思います。人外ってそういう力があったりしますし、最近だと銀は無理でも、日光やニンニクも効かないらしいです。だから昼間でも身動きが取れていた。稀な例に当てはまっている、とは私は一言も言っていませんよ」
美夜子さんは俺と踊るのを止めると、俺の顔を見上げて言った。
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