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「どうでしたか?」
「は、はい。流石に吸血鬼とは特定出来ませんでしたけど、そのような流れだったようです。吸血病に関するカルテや受診履歴も見付かりましたが、事件の二ヶ月ほど前から受診が途絶えていました••••••」
「結果的に抗うのを止めたから、殺しちゃったんでしょうね」
そう言って笑う彼女に、俺は僅かな考えが思い浮かぶ。
院生は、果たして本当に抗うのを止めてしまったのか。俺には何故かそうは思えない。もし本人が行き過ぎた欲求に対し抵抗していても、女子大生側が『私の血を飲んでくれていい』と自らを傷付けたことがあったなら。
『私の血だけしか飲めないんでしょ』と、血を流して誘惑してきたなら。彼は••••••嫌でも本能に狂わされてしまう。そんな彼に思い浮かんだ、唯一の対抗策――それが、彼女の血を抜いて殺すことだったなら。『やっぱり血が必要だから』と言えば、彼女は喜んで着いていったはず。
ボトルに注がれていく血を見ていたなら、捨てようとしても、いずれ抑えた欲求に抗えずに、自然と血を口にしてしまう。
彼女が血を失い息絶えてしまった時、彼はどう思ったのだろう。••••••変わり果てた姿を見て、『やはり自分も死ぬしかない』と悟ってしまったのだろうか。それが抵抗する策だったとしても、恋人を殺したのに変わりはないのだ。
美夜子さんには言わなかったが、院生の死因は餓死ではない。銀製のナイフで心臓を自ら一突きにした、出血性ショック死だった。そして胃の中から、大量に女子大生の血液が見付かった。山に行く前に全て飲み干したのだろう。
ホッと息を吐いた美夜子さんは俺から手を離し、墓地公園の時計を見た。
「あ、もう三十分経ったんですね。そろそろ天魔が来る頃です」
「あぁ••••••」
天魔さんというのは、美夜子さんと一緒に住む従者の男性のこと。表情が変わらず、いつも単調に話すので、すぐに目の前から立ち去りたくなる人だ。
今日も今日とて、あまり会いたくない••••••。
何せ、彼は俺のことをよく思っていないから。
「じゃ、じゃあ天魔さんによろしく」
「はい。気を付けてくださいね?また幽霊に話し掛けられたら、一言だけ返してあげてください。それだけで彼らは満足します。私は経験者なので分かりますよ」
「はい」
「あ、京平さん!」
背を向けたところで声を掛けられる。それに振り向くと、普段通りに微笑みながら聞かれた。
「記憶の方はどうですか?」
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