12人が本棚に入れています
本棚に追加
「••••••全然です。すみません、頼りなくて。毎回聞いてくれるのに、俺って本当情けないですよね」
「いいえ!焦らずゆっくりでいいんですよ!京平さんは、頼りがいのある刑事さんなんですから!私、誰よりも知っています!」
そんなことを言われても、素直に受け止めきれない。同僚や後輩から『頼りない』と言われることが多くなってしまったのは、間違いなく幽霊を目視出来るようになってから。そして記憶を失ってしまってからだ。
前はこんな性格をしていなかった。もっと陽気で、楽天家で。そう――美夜子さんのように、ハキハキとしていて、行動的なタイプだった。
「頑張ります。美夜子さん」
「焦らずゆっくり、ですよ!それと、ちゃんとご飯は食べてくださいね!」
俺は頷いて、今度こそ彼女に背を向けた。街灯が遠ざかり、沼影町の街が見えてくる。まだ二十二時半だというのに、この街は眠りにつくのが早すぎる。どの家にも明かりがない。
まるで、誰も初めから存在していないかのようだ。
(帰りたくない)
何だかこの町を離れてはいけない気がする。毎週来るたびに、そう思っている。美夜子さんを一人にしてはいけない、と。
俺は首を横に振った。もう察してしまっているが、美夜子さんは人ではない。しかし幽霊でもない。その半ばに位置する、全く別のナニカだ。それは天魔さんも同じ。彼女がいるから、この沼影町には幽霊が来ない。
幽霊が恐れるような彼女に、何かが起こるはずもない。
俺はまた歩みを進める。
最初のコメントを投稿しよう!