山賊王に俺はなる!

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 俺の名はダフィー。山賊王になる男だ。  ガキの頃に出会った山賊は、男の中の男だった。俺もあの人のようないかした山賊になる!  おさなごころにそう決めて、今日まで体を鍛えてきた。  そして、あの日――。偶然手にした「悪霊の実」。それを食べれば、不思議な能力を身につけることができると言い伝えられていた。  何も知らず実を食べてしまった俺が得たのは、「ガムガム」の能力だ。  俺は全身ガム人間となり、手足を自由に伸縮させることができるようになった。  何だ、この能力? 「ま、いっか」  食っちまったもんは仕方ねえ。俺はガムガムの能力を使いこなすため、体を鍛え、格闘術を磨き上げた。 「受けてみろ! ガムガムの鉄砲!」  俺は腕を伸ばしてパンチを飛ばせる。当たれば岩を砕く威力があるんだぜ! 「当たるか、そんなもの!」  よく考えてみると、投げた石よりも早いパンチなどあるわけがない。つまり、俺のパンチは飛んでくる石よりも簡単に避けられるのだ。 「うわっ! いてててて……」  俺のパンチは剣や盾で叩き落とされた。酷い時には腕を斬り落とされそうになった。 「だ、ダメだ! こんな戦い方じゃ、山賊王になんかなれねえ!」  俺は体中包帯だらけになりながら、どうしたらガムガムの能力を使いこなせるかを考え抜いた。 「心臓をポンプみたいに動かして、血を高速で流してみたらどうだろう?」  超人的スピードで動き回れるようになるんじゃないか? 「ダメだ! ただの高血圧だった!」  俺は次の案を考えた。 「体に空気を取り込んで、巨大なパンチで敵をなぐったら?」  巨人のような威力を得られるのじゃないか? 「ダメだ! ただの風船だ!」  クッションみたいに柔らかいパンチだった。 「くそうっ! ダメだ、ダメだ! はじめからやり直しだ!」  毎日毎日、俺は「ガムガム」の能力について考え抜いた。そしてついに、俺だけの必殺技を開発したのだ。  この技は無敵だ。明日こそ俺のライバル、タイムズ・スクエアを倒して見せる!  ◆◆◆ 「グハハハ! よく来たな、ガムくそのダフィー」 「ぐぬぬ。タイムズ・スクエア、今日こそおまえを倒す!」 「貴様のくそ能力で俺が倒せるものか!」 「馬鹿にするな! 俺の能力は無敵だ! 行くぞ、『ガムガムの鼻くそ』!」  俺はタイムズ・スクエアと決闘していた。 「グハハハ! 何だその技は! 笑わせるつもりか!」 「何とでも言え! お前はすでに死んでいる!」 「ふざけるな! ダメージなど何も――うぅっ!」  タイムズ・スクエアは顔をしかめると、胸を抑えて倒れ込んだ。 「親分! どうしたんですか?」 「親分たらっ! うわっ、死んでる!」  子分どもがタイムズ・スクエアを取り囲むが、すでに手遅れだ。そいつは動かぬ死体だぜ。 「どうだ、わかったか? 俺の能力は無敵だ! 山賊王に俺はなるっ!」  慌てふためくスクエア一味に向かって、俺は大見えを切った。 「うるせえっ! 親分が発作で倒れたのをいいことに、勝手なことをほざくな!」 「そうだ、そうだ! てめえなんかただの雑魚じゃねえか!」 「とっとと失せやがれ、葬式の邪魔だ!」  子分たちはスクエアの死体を戸板に乗せ、アジトへ運んで行った。 「おかしい。なぜ俺を恐れない? 俺の即死能力『ガムガムの鼻くそ』が怖くないのか?」 「ガムガムの鼻くそ」とは、敵の心臓に鼻くそを送り込む能力だ。  鼻の先っぽを糸のように細くして相手まで伸ばす。蜘蛛の糸よりも細い糸は肉眼では視認できない。  極細の糸の先端は、気づかないうちに相手の胸に刺さり、心臓に達するのだ。  それから俺は糸を通して、敵の心臓に鼻くそを送り込む。  鼻くそは動脈をふさぎ、心筋梗塞を引き起こして敵を倒す。  回避不能の必殺技、それが「ガムガムの鼻くそ」だ!  ◆◆◆ 「けっ! 鼻くそダフィーが来やがった」 「縁起が悪い! さっさとここから離れるぜ!」 「くわばら、くわばら!」  俺は敵対する勢力を「ガムガムの鼻くそ」で倒してきた。だが、世間の連中は俺を「不運を呼ぶ死神」として扱いやがった。 「ちきしょう! 誰も俺について来てくれねえ!」 「ガムガムの鼻くそ」は仕組みを見破られたらお終いだ。心臓をガードした相手に技は効かない。 「俺の能力で倒しているのに、誰も信じてくれねえじゃないか!」  死因(・・)を説明できない俺は、ただ嫌われて、のけ者にされるだけだった。 「こうなったら、また新能力を開発するしかないか」  俺はまた部屋に籠って、「ガムガムの実」の新しい能力を生み出そうと考え続けた。  そしてついに――。 「今度こそどうだ! 脳梗塞を引き起こす能力、『ガムガムの目くそ』!」  目くそ鼻くそだった。 (完)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加