《傍に居る》

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《傍に居る》

 あれは本当に濡れ衣だ。カンニングなんてしていない。  ……美香に裏切られたんだ!  涙が込み上げてくるのを抑えてバスに乗り込み、誤魔化すようにイヤフォンで音楽を聴く。だが音楽を聴いても気持ちが晴れることがない。  愛菜はふぅと息を吐き出して窓辺を見た。窓辺に映る人間が幸せそうに見える。  自分は一体何者で、どうして生きているのかを考える。 「……私って、いったい、なに?」  小さく零れた言葉を拾う者は居なかった。  ルゥがピヨピヨと鳴いているなかで懐中時計が輝き出した。ルゥが目を見開く。 「ピィッ、ピィ!」  器用にケージを開けて机の上にある懐中時計を突けば……王子の姿のルゥが現れた。ルゥは時刻を見て綻ばせる。 「よし。だいぶ感覚は掴めてきたな。……ただ、まだ朝くらいか」  これじゃあ愛菜は居ないなと思って落胆していると、下の方からガチャリと音が響いた。曲者かと思った曲者は前に飛び出すが……居たのは涙を零している愛菜であった。 「……愛菜、どうして泣いているんだ?」 「…………ルゥ!」  愛菜は靴を脱いでルゥの胸に飛び込み泣き出してしまった。初めはどうすれば良いのかわからずに硬直してしまうものの、背中を擦ったり頭を擦ったりした。  愛菜の涙が次第に止まる。 「どうした急に? 泣いても良いことなどないぞ?」 「うぅ……。なんかもう、辛くてさ」  ルゥが愛菜の肩を抱いて抱き締めた。 「お前には俺が居る。俺がずっといるから大丈夫だ」 「……ルゥ」 「だから泣くな。お前に涙は似合わない」  顔が熱くなる感覚を覚えた。ルゥがこんなキザな言葉を言うのだと自分まで恥ずかしくなってしまう。  だがルゥはそういう言葉が似合ってしまうぐらい、精悍で奇麗な美青年だというのを知っている。  愛菜は涙を拭いてルゥの顔を見た。自信ありげなその表情は自信を持たせてくれる。 「ありがとう、ルゥ」 「平気だ」  ルゥは再び抱き締めようとした時に、チャイムが鳴った。愛菜は誰だろうかと思ってチャイムに出る。 「はい、誰でしょう……か」  言い終わるうちにモニターに映ったのは裏切り者の美香であった。
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