《出会い》

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《出会い》

 長身であろう体躯を九の字に曲げて眉を(ひそ)め眠る美青年に、愛菜は見惚れてしまう。声を掛けてもいいのかと思うほど、青年は美しかった。 「んぅ……、なん……だ?」 「え、あのっ! えっと……!!!??」  青年が身じろぎ瞳を開けると――美しく赤い紅の瞳であった。 「……きれい」  まるでルビーのように赤く澄んでいて輝きを放つ瞳であった。青年が起き上がり愛菜の顔をじっと見つめるまで、その瞳にさえも見惚れる。  青年がふっと口端を綻ばせた。 「そんなに俺の顔は奇麗か? 名もなき少女よ」 「なっ、名も無きって……。私は愛菜! 中町 愛菜っていうちゃんとした名前があるんです。あなたこそ誰?」 「俺か? ――俺はルード・バンシェンル。ラプラス国から来たのだ」 「ら……ラプラス?」   なにそれというような愛菜にルードは懐中時計を弄りながら時刻を見ていた。 「ラプラスはこの世界でいう時間や空間を支配すると考えられている。俺はその国の国王陛下になるものだ。今は時空関係のテストでここに転送されたようだがな」 「国王陛下って……、じゃあ王子なんですか?」 「あぁ。今は嫁探しもしていてな。大変なものだよ」  太い息を吐くルードに愛菜は「ちょっと待ってください」そう言ってからリビングで急須に茶を淹れて部屋に持ち込み注いでいた。  ルードが少し驚いたような顔をしていた。 「愛菜……と言ったか? どうして俺が茶を飲みたいなと思ったんだ。言わなかったはずだが?」 「なんとなくですよ。あなたは誰かと似ているから」 「……似ている、か」  愛菜が茶をルードの手元に置く。 「えぇ。でも、無理しない方が良いですよ。あなたの話はどうしてだが信じられます。どうしてなのか、私にもわかりませんけどね」  にこっと微笑んで茶を勧めルードに飲ませた。ルードが美味しそうに飲んでいた。甘さのなかに繊細さがある残る顔立ちに愛菜は鼓動を跳ねさせる。  話題に移そうとした。 「それで、ルード王子はどうしてここに……」 「悪い、時間のようだ」 「え……?」  ルードは懐中時計を手にすれば瞬く間に輝き出し――消失した。だがその代わりに。 「ピィッ!」  一羽の黄色のインコがひょこひょこと地面を歩いていたのだ。愛菜は呆気に取られてしまった。
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