《何者》

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《何者》

 買い物を終えて夕飯の支度をし、家族の帰りを待つ。両親は共働きで兄の友樹はサークルでの活動を終えたらバイトをして帰ってくるのだ。  だから愛菜はいつも一人。学校でも家でもいつも一人。一人で夕飯を食べてお風呂に入って部屋に籠る。  相手をしてくれるのはいつもルゥであった。  ルゥは餌を食べていた。時折水を飲んで首を傾げている。――愛菜は泣いていた。  もう辛かった。学校になど行きたくなかった。  心がもう限界であった。 「辛いよ……、ルゥ。でも、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも……心配させたくないんだよ」 「……マナちゃん」 「くるしいよ、つらいよ、もう……逃げ出したいよ」  うめき声を上げて泣いた。ルゥが戸惑っているが近寄って耳を傾けてくれた。  ルゥは本当に優しいインコだ。――ルゥが自分の彼氏だったらいいのになんて妄想が膨らむ。  ルゥが軽く鳴いた。愛菜がしゃくりあげた涙を拭いて笑う。 「ありがとう、ルゥ。私、もう寝るね。あは、明日はサボっちゃおうかな~」  な~んてねなどと言っては電気を消そうとした。……机に置いてある懐中時計を見つめた。なんとなく手に取る。 「また王子に会えないかな。……もしも会えたら、ふふっ! でも、あんなの夢だもんね」  懐中時計を机に戻し電気を消してベッドに入る。すぐには寝付けなかったが、十分も経てば寝付いてしまった。  愛菜が学校に行けるのは眠る時間を確保しているからかもしれない。 「……ピィ」  ルゥが静かに鳴きケージの扉をこじ開けて羽ばたいた。羽ばたいた先は机に置いてある懐中時計。ルゥはくちばしで触れる。  柔らかな光に包まれてルゥは消失した。だが代わりに、金色の髪を撫でた赤い瞳の青年が現れ、眠っている愛菜を見下ろす。 「無理をしているのはお前だろう。愛菜」  ルードは愛菜の髪をさらりと撫でてベッドの中に入ったのだ。
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