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《朝食と時計》
穏やかで優しい友樹でさえもルゥの登場には顔を歪めている様子だ。愛菜はどう言い訳をすれば良いのか頭の回転を猛スピードで回転出せるのだが「俺は愛菜の友人だ」ルゥがしれっとした顔で言い出した。
友樹が唖然としている様子である。当たり前だ。こんな王族の格好をした友達など愛菜には居ない。
ルゥは愛菜の耳元に近づいた。
「お前もなにか言え。このままだと俺はテストにパスできないからな」
「あ、はい」
再びなんという奴だと思いつつも愛菜は友樹へ笑いかけた。
「ルード・バンシェンルくんっていう、私の高校の転校生なの。実は家が近所らしくてさ。さっきここに遊びに来たんだって」
「遊びに来たって……どうやって?」
「機密事項だ。それよりも、お前は愛菜の……父親か? いや、父親にしては若すぎるしな」
「父親なわけないじゃん。……お兄ちゃんだよ」
「あぁそうか。ルゥと呼ばれているからルゥで良い。よろしく頼む」
手を差しのばされてぽかんとしていた友樹であったが、急にけらけらと笑い出した。「ルゥくんって不思議な子だね」などと言っては差し出された手を握って自己紹介をして朝食に招いたのだ。
今日はトーストにベーコンエッグにトマトスープであった。ルゥが奇麗な仕草でベーコンエッグを食し、スープを飲むのでその姿に見惚れる。
「ルゥくんは食べ方が奇麗だね。愛菜も見習わないとね」
「うるさいな~。ルゥが貴族出身だからだよ。私は普通!」
「そんなことないと思うけどな。……ルゥくんはどう思う?」
トーストをかじり、コーヒーを一口飲んで「うまい……」そう言ってからルゥはコーヒーをソーサーに置いた。
「食べ方はそれなりに教わっているから、教えてもいい。汚い食べ方するよりも奇麗な食べ方をした方が好印象だからな」
「だよね~。ほら、愛菜も今度教えてもらいな」
「うるさいな~」
トーストをかじりカフェオレも飲んでいれば時間が気になった。学校へ行く時間だ。それを考えるだけで憂鬱になる。
愛菜は隠れて息を吐いた。ルゥが一瞥してコーヒーを飲んでいた。
朝食を終えて学校へ行く支度をする。歯を磨き終えて太い息が漏れた。
「お前、学校ってところ行きたくなんだろう?」
「えっ、な、なに急に……」
洗面台に立っているルゥは同じく支度をしている友樹に向けて「愛菜を借りるぞ!」手を引いて玄関を出た。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「知らん。俺はここの土地勘がわからないからな」
「じゃあ学校に――」
「そんな暗い顔をしても行くのか?」
心を掴まれたような感覚に陥った。確かにそうだ。
学校に行っても周囲に無視され続ける学校生活は……もう嫌だった。
「じゃあどこか連れてってくれるの?」
ルゥが懐中時計を弄りだした。時刻を見てふと考える。
「うまくいくと良いがな……」
懐中時計を空に掲げた。
「何時何分何秒をかの者と刻め。……ラプラスの国へ!」
光が包まれた。
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