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あの夜からすぐに北野家が変化したかと聞かれたらノーと答える。
「いつき、よく考えなさい三か月あるんだから」
変わらず母からはボクサーの道から離れるようにと説得されている。
「五歳の時、お母さん応援してくれたよね」
「そうだけど」
仕舞われていたちびっこボクシングのチャンピオンの賞状やトロフィーが再び飾られた。
父はというと説得に協力してくれた平野家へと向かって一足先に外出した。KO負けした平野先輩のお父さんは小さいながらもボクシングジムを経営している。
『指導係探しているんで、よかったら来てください』
騒動が終わった際、平野先輩が父に声をかけてくれた。
父も私たちと距離をとりながらではあるけれど、家庭の修復へと前進している様子。
「それでも、私は強くなりたいんだよ。大切な人を守るために」
赤いグローブを嵌めて思いっきり腕を伸ばしたときの感覚が忘れられない。
ボクサーとして大変なのは知っているけれど、私はやっぱり拳で気持ちを伝えていきたいと思ったから。
「いつき」
「私は迷ったりしないから安心して。お母さん」
玄関を開けたら、お揃いのジャージを着た部員たちが待っていてくれた。
「いってきます」
このボクシング部員たちとなら、私は迷わずに強くなれる。
「いつきをよろしくお願いします」
母が少しだけ微笑んで私を見送ってくれた。
おわり
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