パンチを打ち込んで

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 中学二年の頃、保健室に駆け込んだことがあった。 『青あざになっているけど、誰から?』  腹痛の痛みだと言ってきたのに、家庭環境が複雑だと担任から聞いたのだろう。保健室の先生に問われてしまっていた時。 『先生、困ってるだろ?』  カーテンがシャーと開けられサボっていた生徒が助けてくれた。私は先生の言葉も助けてくれた生徒にもお礼を言わずに逃げていた。  父から受けたなんて言えない  言ったら大切な家族が壊れてしまうから。  けど、それから週一回は保健室へと通うようになって。 *  白い天井、薄い色の水色のカーテン。保健室の消毒のにおいと軋む白いベッドに横たわる。思いっきり背伸びをして身体を伸ばしていると。 『保健室が心地いい場所だよな』  一学年上の先輩だとはわかっていた。けれど、お互い名乗らないのは同じ見えない痛みを抱いた同士だからだ。 『そうですね』 『手伸ばしてみ?形を変えると怖いものになる』  握りこぶしを天井に突き上げてみる。幼い頃にできた豆も小さくなっていた。 『伸ばした拳は誰のためになるんだろうな』 『幼い頃、ちびっこボクシングのチャンピオンになったんですよ。あの時、父から何度も言われたのは』 『奇遇だな。俺の親父も以前はアマチュアの挑戦者だった』  お互いボクシングに馴染みがある二人だから、輝いていた時を話すのが嫌な現実を一瞬だけ忘れさせてくれたの。
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