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気持ちを拳に込めて
部活動が終わり、平野先輩が家まで送ってくれることになった。四月になり暖かな春はもうすぐだけど、まだ春風は肌寒い。
「北野さんのパンチには気持ちある。その気持ちを伝える相手がまだ怖いか?」
平野先輩は誰だとは聞かない。聞かなくても中学二年の会話で誰かは特定できたはずだけど。
「怖くはないって言ったらウソになります」
家が近づくにつれドクンドクンと心臓が速く脈打ち始める。
「いつき、遅かったじゃないの。体験入部はすぐなんじゃ・・・」
母が門扉から姿を見せて右隣に立つ平野先輩に視線を向ける。
「お母さん、私ね」
「いつきには、お父さんみたいにならないでほしいって言ったよね?あなたは小さかったから覚えてないだろうけれど、リング上でのびていた相手よ」
まぶしいフラッシュの先にいた男の子は私を睨み付けていた。母に言われて思い出したのはまだ父が優しかった頃の泣きじゃくったリングでのこと。
「平野先輩が、上から目線だったのも最初から敵意むき出しだったのも」
右隣を見上げるのは簡単なはずなのに、色んな感情が沸き上がり平野先輩を見ることができない。
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