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「弱々しいやつだったら、今まで抱いた感情も馬鹿馬鹿しいと思っただろうな。けど、スパーリングの練習でわかった」
「いつきは入部希望なだけですから!!あなたは帰って」
母が少し語気を強めながら、私の腕をつかんで引き寄せていく。
「娘さんは家族に修復の機会を作っているんですよ。同じボクシングの道を進むことで、父親の気持ちに寄り添おうとしている」
暗闇で母の顔がわからない。どんな顔で平野先輩の話をかつて、父の対戦相手だった挑戦者の息子の話を聞いているのだろう?
ガラガラと玄関の引戸が乱暴に開けられる。父の大声が、私と母を萎縮させていることを平野先輩が目の当たりにして。
「いつき、お前、誰と話している!!」
「お久しぶりですと言っても覚えていないでしょう?同じボクシング部の平野はじめです」
父は私たちを通りすぎ平野先輩めがけ腕を伸ばす。
バシン!!
乾いた音が闇夜に響く。
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