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 額に当てられた冷たさのせいで、ナイメリアは目をひらいた。自室のベッドに寝かされている。おずおずと、冷えた布を乗せようとしていた白い手が引っ込んだ。アメジストの瞳をした少年が眉を下げ、ベッドの横に座っていた。所在なさげに布を降ろし、しゅんとしている。 「申し訳ございません……ソティル」  少年の声は陽だまりのように柔らかく、耳に心地よかった。こんな状態でなければ、うっとり聞きほれただろう。ナイメリアは不躾に少年を眺めてしまった。 「あなた……あなたが、楽器のフロイデ?」  少年は憂鬱そうに頷き、口を開きかけたが、次の瞬間には慌てた顔になる。身を起しかけたナイメリアが、そのまま重力に引かれるようにまたベッドへ倒れこんだからだ。 「体が重い……」 「申し訳ございません」  呻くナイメリアを、フロイデがすまなそうに見ている。どうして謝るのだろう。疑問を察したように、フロイデが白く染みひとつない手を差し出した。 「どうぞ、お手を。そうすれば見えますから」 「何が……?」  少年はそれ以上を説明する気がないようだった。訝りながら手を重ねると、少年の肩にたれさがる重厚な鉄鎖がみえた。鈍色の武骨な鎖は、少年の首にネックレスのようにかかり、その先はナイメリアの首にかかる鎖と繋がっている。手を離すと鎖は見えなくなるが、フロイデの手をとると鎖の姿がはっきり見える。この鎖の重みが、ナイメリアの体を重くしている原因だった。昔、兄のウビガンがふざけて上にのしかかってきたことがあるが、それぐらいの重さがあった。身を起こすのもひと苦労で、この状態ではまともに立てるかもわからない。ナイメリアは鎖を外そうとしたが、外そうとすればするほど、鎖の重みは増すようだった。骨が軋むような重さを感じ、ついにナイメリアは諦めた。ベッドに仰向けに転がると、フロイデが疼痛をこらえるように言う。 「──私を選ばれるべきではありませんでした。私は、重戦闘特化Ⅳ型に分類されております。大変申しあげにくいのですが……歴代のソティルは私の重みに耐えきれませんでした。私を得ると、およそ三年で落命してしまうのです」  ナイメリアには呻く力も残されていなかった。魂の抜けそうなため息が、ベッドの上のほうにあがっていくのを茫然と見つめていた。
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