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額に当てられた冷たさのせいで目がさめた。自室のベッドに寝かされている。おずおずと、冷えた布を乗せようとしていた白い手が引っ込んだ。アメジストの瞳をした少年が眉を下げ、ベッドの横に座っていた。所在なさげに布を降ろし、しゅんとしている。
「申し訳ございません……ソティル」
少年の声は陽だまりのように柔らかく、耳に心地よかった。こんな状態でなければ、うっとり聞きほれただろう。不躾に少年を眺めてしまったかもしれない。
「あなた……あなたが、楽器のフロイデ?」
少年は憂鬱そうに頷き、口を開きかけたが、次の瞬間には慌てた顔になる。身を起しかけた自分が、そのまま重力に引かれるようにまたベッドへ倒れこんだからだ。
「体が重い……」
「申し訳ございません」
フロイデは申し訳なさそうにしている。どうして謝るのだろう。疑問を察したように、フロイデが白く染みひとつない手を差し出した。
「どうぞ、お手を。そうすれば見えますから」
「何が……?」
少年はそれ以上を説明する気がないようだった。訝りながら手を重ねると、少年の肩にたれさがる重厚な鉄鎖がみえた。鈍色の武骨な鎖は、少年の首にネックレスのようにかかり、その先は自分の首にかかる鎖と繋がっている。手を離すと鎖は見えなくなるが、フロイデの手をとると鎖の姿がはっきり見える。この鎖の重みが、体を重くしている原因だろう。昔、兄のウビガンがふざけて上にのしかかってきたことがあるが、それぐらいの重さがある。身を起こすのもひと苦労で、この状態ではまともに立てるかもわからない。鎖を外そうとしたが、外そうとすればするほど、鎖の重みは増すようだった。骨が軋むような重さを感じて、諦めた。ベッドに仰向けに転がると、フロイデが疼痛をこらえるように言う。
「──私を選ばれるべきではありませんでした。私は、重戦闘特化Ⅳ型に分類されております。大変申しあげにくいのですが……歴代のソティルは私の重みに耐えきれませんでした。私を得ると、およそ三年で落命してしまうのです」
もはや呻く力も残されていなかった。魂の抜けそうなため息が、ベッドの上のほうにあがっていくのを茫然と見つめていた。
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