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タイヤが破裂。
それは酷く恐ろしい言葉に聞こえた。
「車の運転は慣れているつもりだったが、タイヤバーストは初めてだったからね。すっかり僕はパニックに陥ってしまった。だからハンドルを切り損なって……」
彼がチラリと、助手席の方へと視線を向ける。しかしその目の焦点は、私には合っていなかった。
「ああ、今でも信じられない。こうして僕は無事だったのに、どうして君だけが……!」
この時ようやく私は理解した。
彼が生者であるのに対して、私が死者であることを。
彼は生者として、死者と別れたがっているのだと。
このドライブデートも、そのための作業。成仏できない魂を成仏させるにはこの方法しかない、とお寺か何処かで教わってきたのだろう。
衝撃的な真実だったが、不思議とパニックにもならず、私は冷静に受け止めることが出来て……。
「うん、わかった」
私の口からこぼれたのは、もはや彼には聞こえないはずの一言。
その瞬間、それまで車の中だった私の視界が、外から見下ろす格好に変わる。
同時に、己の魂が天へと昇っていくのを、自分でも感じるのだった。
(「最後のドライブデート」完)
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