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多朗くんはその後も良くラーメンを食べにきてくれました。高校を卒業すると調理師の專門学校に進み、そして今、私の店を手伝ってくれています。礼儀正しく物覚えも良く、すっかり店の戦力です。多朗くんが店に来てからお客さんも増えました。華湖も看板娘として店を支えてくれています。いつでも安心して引退できるってものです。
兄夫婦が亡くなり、華湖が我が家へ来て20年が経ちます。子どものいない私たち夫婦は、兄の忘れ形見の華湖を我が子のように育てました。いつかは嫁に行ってしまうという寂しさは日に日に増していきました。でも、まさかうちを継いでくれるとは。良い男性と巡り会えたのは兄のお陰だと感謝しています。
昨夜、華湖が改まって私たち夫婦に挨拶をしてくれました。
「叔父さん、叔母さん。今まで大切に育ててくれてありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。実はお願いがあるんです。結婚式を期に、叔父さんをお父さん、叔母さんをお母さんと呼ばせてください」
華湖は私たちの養女にはなっています。戸籍上は親子です。でも華湖には両親との記憶はたくさん残っています。そんな華湖に私たちを「お父さんお母さん」などと呼ばせるわけにはいかないと諦めていました、
答えあぐねていると、華湖が実結に耳打ちしました。すると実結がニコッと笑い「ジイジ、バアバ」と言ったのです。華湖に似た、兄に似たクリクリした瞳で……。
「実結がジイジバアバって言ってるのに、私が叔父さん叔母さんじゃ変でしょ?」
結婚式が伸びて実結が生まれてくれたお陰で、私たちはジイジバアバに、親になる事ができました。私たちは名実共に家族になれました。感無量でございます。
ああ、すみません。話が伸びてしまいました。ひと言だけお祝いを言うつもりだったのに、嬉しくてつい。多朗くん、華湖。末永くお幸せに。これからもよろしくお願いします。
父より。
〈終〉
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