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物で溢れるこの借家は、いわゆるデザイナーズマンションとやらで。初めて出来たモデルの彼女に、どっぷりハマった俺が彼女色に染まり過ぎて、勢いで借りた身の程知らずな物件で。居酒屋コンビニ日払い倉庫作業漬けの日々でも、彼女の為なら辛くないぐらいの盲目っぷりで。このまま金貯めて、結婚まで秒読みぐらいの気持ちだったんだ。
『君のこと大好きだけど、結婚は一切考えてないの。貴方ぐらい誠実な人にこの先出会える気、しないけど…でも、今の仕事をのぼり詰めるためなら、私、カメラマンと枕したって構わないと思ってるのよ。』
だからね、こんな私より
『イイ人と結婚して欲しいんだ、君にはさ。』
そう言って、きっぱり別れを告げられたのが約一年前。彼女は今や表紙を何度も飾るまでに出世した。のぼり詰めたのである。枕をしたのか否かはさだかではないが、枕だけで表紙を飾り続けられるとは思わない。そう。きっかけに過ぎないのだ。そのチャンスからどう踏み出してゆくかは、やはり実力次第。…彼女の、大好きに嘘偽りはなかった。だからこそ、立ち直ることがより難しく、いまだに彼女がいたこの場所で、ずるずると暮らし続けている。労働で占められた日常からの久々の解放。まる二日オフをもらえた俺は、そのまま家に帰るのも忍びなくて、あまり好きでもないクラブに行って、一時間も経たないうちにギブアップ。近くにあったバーで無理な呑み方をして。それからふらふらになりながら、二軒目に行ったところで記憶が途切れている。気がついたら、自宅のベッドで寝ていた………知らない男と、二人で。
「おい、てめぇ。フィルターどこにあんだよ。ザッセンのコーヒーミルなんて一丁前に持ってやがるから、毎日飲んでんのかと思ったら全然じゃねーか。宝の持ち腐れだな。」
「…シンクの横の三段ボックスの二段目に…あるはずです」
一ヶ月ほど前に観た、Vシネマを思い出す。目の前の男は、まるでその筋の人のような顔だちをしている。要約すると物凄く強面だということ。ああ、この部屋に上がったことのある人間は、彼女だけであったのに。二人目が強面の見知らぬ男だなんて。縄張りを荒らされた、野生動物のような気持ちになって、これ以上部屋の物に触れられたくなくて、勢いよくベッドから起き上がる。……下着を履いていない。あの、と彼に問いかけて、下着が、と間髪入れずに続ける。それにけろりとした顔で、ああ、と何か知ったような反応を返す彼。
「悪いな。お前が昨日履いてたの、今俺が履いてる。自分のが昨日の前戯で履ける状態じゃなくてな。まぁ、すぐに脱ぐんだし、問題ねぇだろ?」
「…え?」
問題点が多すぎて
どれから聞き返せば良いか、分からない。
とりあえず…一番気になる発言から。
「…何で、すぐ脱ぐんですか」
「そういうの、言わせたいタイプかよ、てめぇ。セックスするからに決まってんだろーが。昨日お前が言ったんだぜ?帰んな、まだヤリ足りねーってな。」
「、ッ…俺、抱かれたんですかっ」
「は?逆だけど。」
そんな、まさか。
この人を、俺が抱いた?
「お前さ、童貞卒業してからまだ浅いだろ。くわえて彼女の言う通りに、シてたクチか?可愛かったぜ、昨日のお前。避妊、避妊しなくちゃって、何回も繰り返し言うんだよ。ちゃんと濡らさないと痛い、大丈夫?って気遣うんだぜ、よっぽど元カノのこと愛してたんだなって、まざまざ伝わってきたよ。」
酔ってんのに、頑張って自制してる
お前見てたら
「すっげー興奮しちまってな。持ってる技全部つかって、理性崩しにかかったんだけど、最後は俺が先にイッちまった。大した紳士だなぁ、お前。優男過ぎて振られたのかよ?」
女ってのは刺激がねぇ男には
すぐに飽きちまうからなぁ。
「ッ、彼女はそんな人じゃない!知ったようなこと、言わないで下さい!嫌いあってたわけじゃないっ」
頭に血が上って、食い気味で
そう言い返してしまう。
そんな俺の態度に
「じゃあ、何でお前独りになってんの。」
すっと眼を細めて
「そーゆー人間かは別として。本当にずっと一緒にいたいと思う人間とは、何が何でも離れようとしないもんだぜ。二人でいること前提で物事考えるんだ。残念ながら、元カノのビジョンにお前って人間は、いなかったんだろうな。」
核心を突く。
一番触られたくない箇所を、無遠慮につつかれて。面白いほど全身が熱くなって、身体が勝手に動いた。怒りに身をまかせたことなど、産まれてこの方なかったのに。自分が彼に何をするか分からなかった。そんな激怒した人間が、近づいているのにも関わらず、彼は微動だにしないで俺を見据えている。至近距離まで詰め寄った俺を、制するように出された左手を前に、反射的に止まった。
「おっと、火ぃつかってるからタンマ。…ふふ、止めたぞ。どーすんだよ、青年。フルチンですごまれてもイマイチ迫力ねーなぁ?」
絶妙な動きで、後一歩の間合いを逆に詰められて、流れるような動作で、性器を掴まれ短く息を吐く。生理的なそれを誤魔化すように、手の主を睨みつけた。捕らえるはずが、捕らえられている。自分だけが弱みを握られているこの状況が気に入らなくて、同じく性器に手を伸ばし下着の上から撫で上げると、慣れた様子で深く息を吐き、悦楽の影をいなす。自身と同じような反応をするとばかり思っていた彼は、あろうことか俺の手に自らを擦り付け、その先を強請った。胞子を撒き散らす植物と、色香を発する彼が重なって見える。その色香を体内に吸収したかのように、彼の指が絡んだままの自身が疼く。それを見逃さない彼は、にやりと笑みを浮かべて、俺が煽られている事実を、喜んでいるようだった。
「…、ふ…は、ァ…このまま、キッチンですんの?エプロンつけてやろーか」
裸エプロン、男のロマンだろ?
「…遠慮します。アンタ、後ろのケトル危ない、し…」
「危ないし、何?ベッドでヤろうぜって?」
その言葉を肯定する、発言をするのが嫌で
腕を掴んでキッチンから離れると
そのままベッドに引き倒す。
「口で言うより行動派ってか?ふふ、俺、そーゆーの、嫌いじゃないぜ」
扇情的な彼と俺の間には、むせ返るような性の空間が広がっている。誰かとこういう行為をするのは、彼女と別れて以来で、自分の真下から見上げられる感覚など、久々過ぎてまるで初めての時のように、動悸が早くなる。躊躇しつつ、唇と舌で首筋からゆっくりたどってゆく。
思いのほか淡い色の乳首。
焦れったいほど緩慢に
彼の眼を見つめ、彼が油断するの伺って
不意に吸いつくと
「…は、ァ、ンん、ッ」
胸筋が大きく上下した。
もう片方は手をつかって、強くつねって、指の腹で転がす。執拗なほど構った乳首は、隠しようがないほど固くなって、その存在を主張する。すっかり荒くなった、彼の息遣いに満足し、今度は見事な腹筋をなぞりにかかった。同性の自身が嫉妬するほど、しなやかで引き締まったイイ身体が、自分に翻弄されている今の状況に、征服欲が満たされる。自分にはこんな欲求があったのかと、驚いた。見知った下着が視界に入って、そういえば、と思い出す。さすがに自分が昨夜まで、身に着けていたものを、口でどうこうするのは遠慮したいと、生地越しに撫でこする。焦れて仕方ないのか、腰が浮いている。彼に当てられて言い訳出来ないほど、勃起した自身を、同様に勃っている彼の中心に、隙間なく密着させて、腰を上下に動かす。
「…、…アッ、は、ァ…お前、着衣、フェチ…かよっ」
「そんなのっ、考えたこと、な…は、ッ」
「なぁ、もしかしてっ、男、初めてじゃねーの?」
「はぁっ、初めてに決まっ、てっ…ーーーうァッ!」
「アァ、ッ…ーーーンん、はァ…ぁ…」
彼が出した精液で、下着が濡れて大きな染みになっている。それを凌駕するように、飛び散った自身の精液は、彼の胸筋まで汚していた。彼が放心状態になっている間に、一気に下着を脱がし、素早くまたぐらに入り込んだ俺は、近くに転がっていたローションを手に取ったが、そのまま彼の意見を聞かずに、最後まで致すのは気が引けて、彼に問うてしまおうと思った刹那、彼の足が背中に絡みつく。
「なぁに今更怖気づいてんだよ…大丈夫だから、来いって…ふン、ァ、ほら、ココに指、挿れて、解して…」
自ら尻の肉を掴んで開く様を目の前にして、思わず赤面する。エロ過ぎるという感覚を、身をもって知ったのは初めてだった。ヒダをなぞると、収縮しているのが生々しく伝わる。傷つけないようにローションをまとわせた中指を、差し入れると、内壁は異物を包み込み、誘い込むような動きをした。次いで二本、三本とすんなり飲み込んでゆく。三本入ったら大丈夫、という彼の言葉を無視して、四本目を挿入する。念には念を精神でそうしたのだが、彼からフィストファックは勘弁だ、との発言が飛び出す。突発的な好奇心に負け、経験があるんですか、と聞いてしまう。特に質問されたという事実を、気にしている様子もなく、吐息混じりに、ねーなぁ、と短く返された。四本の指の出入が、スムーズになったのを見計らって、抜き去る。ずるりとひといきに抜ける感覚に、彼は小さく喘ぐ。自然な動作で自身を入口に宛てがうと、彼の太股が少し震えたのが分かった。
「…、…やっぱり」
止めた方が、いいんじゃないかと
言いかけた唇を、制するように
人差し指が添え当てられる。
「これだから、ヘタレは駄目だなぁ?」
ひと思いに、突き挿れちまえよ。
昨日みたいに長く長く責め立てて
俺を負かしてみろ。
あぁ、もしかして、お前
「酒呑んでなきゃ、早漏なのか?」
もしそうなら
「俺の、圧勝。」
これは煽り文句だと、分かっているのに。
彼の勝ち誇ったような表情を前に
まんまと煽られ、両足の太股を鷲掴み
ひと突きにしてしまう。
「あ、ぁー…ッ!ふ、うン、すっげ、っ、ァッ!」
衝撃のあまり、弓なりになる彼の身体。
「…ーッ、!はぁッ」
入口はキツいのに、ナカは優しく引き入れるように動く。そのギャップに翻弄されて、即座に賞杯を彼に渡しそうになってしまう。何とか放出欲をぐっとこらえて、持ち直し、出入に取り掛かる。動きやすくする為に上体を倒し、彼の顔の両側に手をつく。それに応えるみたく、ごく自然な所作で、首に手を回される。気がつけば、唇が触れそうで触れない、ぎりぎりの間隔
。彼の表情は唇を重ねたい欲求に支配されたそれなのに、決して自分からは触れようとしない。どうしてという疑問は、いましめるがごとく、下唇を噛み締める彼の様子によって、解消された。…傷心の俺の心境を推し量って、気を遣っているのか。そう意図に気付いた瞬間、溢れ出る激情のまま自ら唇を奪った。小さく見開かれる眼。少し遅れてキスに応じる彼の舌さばきは、流石といった感じ。負けじと舌を絡めるが、やはり未熟でリードされっぱなしだ。しかし彼はそれを馬鹿にするどころか、何かのスイッチが入った様に、所謂蟹挟みでもっと深い接吻を求めた。けれどそれを拒み、伝えねばならないことを、どうにか言葉にする。
「、ン、は…ゴム、つけてないから、駄目ですよ!」
「ンん、はァ、イイから、このまま、ッ出して、ァ!」
がっちり固められた足から、抜け出すことは不可能に近い。さっきから亀頭に当たるシコリを、集中的に刺激すると、彼は一際大きい嬌声を上げた。…彼の弱点なのか。無意識に、口角が上がる。勝機が見えた。執拗に一定の律動で攻め立てると、彼からはじめて、駄目だ、という言葉が出る。
「あ、アッ、おかし、くっ、なっちま、あァ、ッ!」
攻め立てるほどに、腸内も活発に動き、それにつられて、自身の射精欲も高まってゆく。限界が近い。お互いの汗や体液で、ぐちゃぐちゃの状態になっているのも全く気にならないほど、興奮していた。これだけ攻めても、一向に緩む様子のない両足からは、もう逃げられないと悟る。
「んアッ、あァ、…ッ、もっ…イック、ぅ…ーーッ、ァ…ぁ…ンん…は…」
触れてもいない彼の性器から
精液が飛び出る。
余波で痙攣する内壁は
大波のような悦楽を俺にもたらし
「…ッーー、ふン、は、…ッ!」
それに打ち勝つ術はなく
呆気なく、達した。
「…は、ッ、ァ、出てる…お前の、すっげぇ…っ」
自分でも驚くほどの射精量で、勃起が解けるまで少し時間がかかった。ナカの動きが弱まった時宜を見計らい、抜こうとするが中々に絶妙な具合の良さで、また反応してしまいそうになるのを堪え、ゆっくりと自身を抜き去った。腸液と精液が混じり合ったモノが、亀頭と後孔の間で糸を引く。ぱっくり開いたままの後孔から、精液が垂れて太股をつたうその卑猥さに、思わず眼を逸らした。息を整えるのに必死そうな彼を、バスルームに連れてかなくてはいけないのだが、軽々と抱き上げられる気がしない。一番現実的な、おぶって行く、という方法を、とることにした。
「…申し訳ないんですけど、俺、すごい筋力は持ち合わせてないので」
おぶらせてもらいますね。
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