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椅子取りゲーム
「それでは今一度、全員この部屋を出てください・・はい、慌てないでゆっくりでいいですよ」
私たちは係員の誘導のまま隣の部屋に移された。それからしばらくすると再び元の部屋に誘導されるようだ。
「それでは此方の十人の方だけ、先ほどの部屋にお入りいただき、係り員の指示に従ってください」
この分だと最後に来た私は最後のグループになるようだ。
『そんな馬鹿な!』小さくだが怒鳴り声が隣室から聴こえてくる、凄く怒っている様子が伺える。
でも、一度出て行った人たちは誰一人この部屋には戻ってこなかった。
(いよいよ、次だ! いったい隣の部屋では何が行われているのだろ、誰も戻って来ないから、それが却って私の恐怖を煽る)
「はい、皆さんが最後のグループでしたね、お疲れ様でした」
「おぅ兄ちゃんよ、これから何が始まるって云うんだ⁉」
「はい、もう始まりましたし、終わりました」
(馬鹿じゃないだろうかこの担当者! 私たち、つい今しがた隣の部屋から移って来たばかりじゃないですか、それにこの前に来たときは全員が坐れたというのに、今度は僅か十人だと言うのに私ともう一人の椅子が足りない)
そう思った私だったが、もう一人の人物が先に声を発していた。
「おぅ兄ちゃんよ、終わりましたって云うけれど椅子が一つ・・いや二つ足りねえんだよ!俺たちまだ坐ってもねえんだぞ!」
「はい、これは無言の椅子取りゲームでして、座れなかった御一人の方は、年金支給額の減額が決定しましたし、もう御一人の方は、支給年月日を3か月延長して支給することとなりました」
「テメエ馬鹿か⁉ 争いごとの多いこの世の中、お先にどうぞって謙虚な人間が馬鹿を見るなんて、誰がそんなの決めたんだよ⁉」
「はい、今の総理大臣です」
「へぇ~総理がですか?・・ご担当者さん、一つお聞きしたいことがあるんですけど?」
「あっ一人遅れて来られた、根津さん?・・でしたよね、どうぞ何なりと」
「あの・・この国を退会したいんですが、印鑑とか必要でしょうか?」
「脱会・・ですよね? いいえ、脱会には印鑑は不要です。スマホから総務省のホームページにお入りいただきますと・・」
「すっ、すいません、私しガラ携なんですけど」
―完―
この作品はフィクションであって登場人物などは架空の人物あるいは施設です。
あらかじめご了承くださいませ。
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