総理が腹をくくる

1/1
前へ
/6ページ
次へ

総理が腹をくくる

「厚労大臣・・⁉ なんだか雲行きが危うくなってきましたね⁉」 「それは私だけの責任じゃありませんよ、閣僚全員の責任じゃないですか? それも50年も前からの閣僚ですがね!」  厚労大臣の部屋にやって来ては、なにやらぼやいているのは総理大臣だ。 そういえば昨日の国会でも野党議員からの執拗に追及を受けていたのは総理だった。 「君、少しばかり席を外してくれないか?」 「かしこまりました大臣」  話の成り行きを察したのだろう、厚労大臣は自分の秘書を執務室から席を外すよう命じていた。 「この場に及んで責任を擦り付けあっている場合じゃないと思いますがね、総理!」 「だがね・・当時の平均寿命は 男69歳で 女子が74歳だったと云うじゃないか⁉ それがどうだ、今の平均寿命は 男性が80歳で 女性が87歳ですぞ!」 「それって国民の寿命が15%も伸びてしまったってことですよね⁉」 「そうなんだよ・・そもそもこの制度設計の分母が誤ってたってことだよね」 「総理、これだけ医学が発達すれば、日本人の寿命だって延びると予測出来たのに・・先読みがなかったってことですよね、だから私は50年前の閣僚を呼んでくださいって言ってんですよ!」  50年前だと、今ここに居る二人はきっと学生だったに違いない。 でもあの頃の学生さんって大学の講堂を占拠するぐらい政治に体張ってましたよね、手段こそ合法的じゃなかったもので肯定は出来ませんがね。 「よりによって私が総理の時期に浮き彫りになるなんて・・割に合わないよね、 だろ! 後、4年は任期を伸ばしたんだ!大臣」 「そりゃごもっともです総理!」 「もういい大臣、私は腹くくったぞ! ちょっと耳貸してくれないか」 総理は大臣を自分の傍に寄せると大臣の耳に自らの手を添えてなにやら囁いた。 「そりゃ駄目でしょ⁉ それこそ今度の選挙、大敗ですぞ!」 『今度の選挙が大敗!』だなんて、いったい総理は何を決断したのだろうか? そうか『大敗』ってことは、きっと有権者が嫌がることに違いない、しかも内緒話だなんて怪しいもんだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加