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 律は狡い。  何かあるといつも、『子供』の一言で片付ける。  私だって、早く大人になりたい。余裕のある大人になって、律にもっと……好きになってもらいたいのに。 「琴里」 「え?」  名前を呼ばれて我に返る。 「ほら、もうすぐ着くぞ」  律の住むアパートから私の家までは車でニ十分くらいの距離にあって、学校が律のアパートから比較的近くだから学校帰りは必ずと言っていい程寄っている。  律は小説家だから常に家に居るし、家事が苦手だって言う律に代わって私が家事の一切を取り仕切っている。  傍から見れば、それなりに彼氏彼女として成り立っていると思われる私たち。  だけど、何か違うっていうか、足りない気がするの。  だって、私は常に『好き』って言ってるけど、律は一度も言ってくれないから。  いつも、不安になる。 「着いたぞ」  家のすぐ近くに車を停めてくれた律。  帰らなきゃいけないのは分かってるんだけど、律の傍を離れたくなくて動けずに居る。 「また明日会えるだろ?」  煙草を灰皿に捨てながら優しい口調で諭してくれるけど、 「……だって、もっと一緒に居たいもん……」  どうしても離れたくなくて、我儘を言う。  これだから子供って言われるのは分かってる。  だけど、好き過ぎて一秒だって離れたくないのだ。
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