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まもなく配信
地球滅亡が発表されたとき、しばらくの間は世界中の誰もがひどいパニック状態に陥ったが、状況を受け入れた彼らはいち早く行動を開始した。
必要な物資を買い占め、特注の宇宙船に積み込んだ。
世の中の富を独占する立場にあった彼らにはできないことなどなかった。
当然のように地球上に存在する素晴しいものは根こそぎ自分たちのものにして積荷に加え、同時に自分に必要ないと判断したものは容赦なく切り捨てた。
あまりにもひどい態度だったから、地球に残ったわたしたちは彼らが去るときにはひどい言葉を空に向かって投げつけたものだ。
彼らにわたしたちの言葉が届くことはなかった。
反省などしない恥知らずたちは悠々と宇宙を漂い、そのうちに目をつけた星に降り立った。
新天地の発見を彼らは喜び、地球の滅亡を見事生き延びた自分の才覚を讃えてこれを盛大に祝った。
やはり自分たちに出来ないことはないのだと、ますますいい気になった。
驕り高ぶる彼らは、これまでの人類の歴史を全て塗り替えることを思いついた。
どうせもう地球は消えてなくなったのだから、自分たちに都合よく歴史を作り変えてしまおう。
誰も文句をいわないのをいいことに、彼らはあらゆる発明や芸術作品すべてを自分たちの手柄として記録し直した。
目立ちたがり屋で承認欲求の強い彼らは、張り切って人類の歴史を改ざんしていった。
まさかそこまでやるとは。
地球に残ったわたしたちは、彼らのあまりに図々しく恥知らずな振る舞いに呆れかえった。
そう、実のところ地球は滅亡なんてしていなかった。
彼らが地球から去ったあとも、わたしたちは変わらずそこで生きていた。
これは地球上に存在する横暴な権力者や恥知らずな金持ちを追い出すため、綿密に練られた計画だったのだ。
わたしたちはずっと彼らに支配されてきた。
金や食べ物を目の前にちらつかされ、仕方なく彼らのために働いてきた。
どうしようもないくらい格差は広がりすぎていたし、富を手にした人間の愚かさや傲慢さは度を超えていた。
そこで地球滅亡という嘘のニュースを流し、パニックを装って彼らを煽り立てたのだ。
彼らが旅立ったあと、わたしたちはその様子を地球から観察していた。
新天地では新たな争いが勃発しているようだ。
誰もが頂点に立ちたがり互いに牽制しあっている。
負けたら最後、自分が支配される側になってしまうのだからそれはもう生死をかけた真剣勝負が繰り広げられている。
嘘をつき騙し合い、手を組むふりをして裏切る。
最後に生き残るのはいったい誰なのか。
地球からの遠隔操作で自由に移動できる小さなカメラが、いまも彼らの毎日を追いかけている。
来年あたりにはそれらをまとめたリアリティ番組が世界配信されるらしい。
彼らが去ってからは争いも労働も減り、娯楽を求めていたわたしたちは番組の配信日を心待ちにしている。
彼らはそんなことも知らず、相変わらず見苦しい争いを続けている。
おそらく最後のひとりになる日まで、彼らは嘘にまみれた人生にさらなる恥を上塗りし続けるだろう。
終わり
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