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 私の名前はブラックマン。  世の中の全てを黒く塗りつぶす者だ。  その目的のためならば仕事は選ばない。  事務所には”NGなし”の看板を掛けている。  もしあなたが、黒塗りの国家機密文書や決算報告書を見たならば、それは私の仕事だと思ってもらって構わない。  黒というのは懐の広い色である。  だから、善であろうが悪であろうが、全てを包み隠し、塗りつぶすのだ。 「あの、黒く塗るのが得意な方って聞いて......」  ふむ。今回の依頼人が現れたようだ。20代前半の女性らしい。メールに書かれていたのは、確かスパイの秘密がどうとかいうやつだったな。 「如何にも。私がブラックマンだ。証拠隠滅から妨害まで。君は私に何を塗りつぶして欲しいんだい?」 * 「この×が描かれた箇所を塗っていけば良いのかい?」 「はい。インクはこちらで」 「この用紙の端はここで合っているのかな?」 「いえ、こちらの実線までなのではみ出すようにしてもらっても大丈夫です」 「ふむ......難しいな」 「あっ、凄い。線ぴったり! 良かったらこっちもお願いします!」 「んーーこれ、は!?」 * 「......。」  数日後。事務所に再びやってきたのは、先日の女性だった。手には先日の仕事の成果である本を持って。 「ブラックマンさんのお陰で新刊を落とさずに済みました! まさか背景の黒ベタだけじゃなくて、その、局部の黒塗りまでお上手だなんて思いませんでした!」  あ、これ献本です。といって一冊の本を手渡された。薄い本と聞いていたが500Pぐらいある。タイトルは『スパイの秘密を黙って欲しければ俺に従え 〜誰にも言えない2人の時間〜』。  そう。私が先日任されたのは、男と男の裸シーンばかりが掲載されている同人誌と呼ばれるものらしく......。しかも、その内容が大変、大変際どく......。そして、同人誌という都合上そのままでは掲載出来ない部分を何箇所も何箇所も、それはもう数え切れない程の黒塗りをさせられたのである。 (初めて接する文化だった) 「あの、またお願いしてもいいですか?」 「こ、断る!!」  私は事務所の看板に小さく”漫画家お断り!”の文字を入れた。 ーーおわり
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