低気圧な恋人

1/1
前へ
/1ページ
次へ

低気圧な恋人

 低気圧な僕のカレシ……  僕のって言っていいのかなぁ?  片頭痛持ちのカレシさん事、兵藤 嵐さんは、五歳年上で性格は、少し堅い人。それでいて極端なぐらいに朝も、弱々だ。  僕が、起こしに行くと…  「ムリ…」と、布団を被って寝てしまう。  これが低気圧の真っ只中だと、その朝の寝起きは、最悪なものになる。  「頭痛薬持ってこようか?」  「…ん?…いい。ガンガンする…」  ガンガンするなら飲もうよ!  ってか、低気圧とか片頭痛持ち用のアプリをスマホにインストールして通知設定してるんだよね?  「…ダメだ…吐き気してきた…」  嵐さんは、真っ青な顔色で飛び起きると、トイレに駆け込む。  今日は、特に酷そうだ…  開けられたドアから見えた嵐さんの背中を擦る。  「お水、持ってこようか?」  額を右手で押さえならが、コクリと頷く。  立ち上がらせて洗面台で、口を濯いでもらってから。  手を貸してソファーに座らせる。  常備してある薬と、ペットボトルの水に厚手のブランケットを持って行くと背もたれにすがるように、うずくまっていた。  肩からブランケットを掛け薬とペットボトルの水を差し出す。  嵐さんは、片頭痛持ちなのにも、かかわらず…  大の薬嫌いだ。  「飲みたくない…」  いや…  飲まなきゃ治らないんでしょ?  無言で、鼻先に付ける勢いで薬を押し付ける。  「…飲んだら…ギュッてする…」  弱々の嵐さんは、僕の手から薬とペットボトルの水を受け取ると静かに飲み込み。僕の腰に手を回し、頭をグリグリとお腹の方へと擦り寄せてくる。  「飲んだばっかりたから。しばらくジッとしてよう。無理すると薬が効かなくなるから…」  頭を撫でると、素直に頷いてくれた。     …って、離してくれない。  挙句の果てには、ソファーをベッドに僕を枕に寝入ってしまった。  僕には、片頭痛なんって無くて風邪で、頭が痛くなるくらい。  肩凝りもないぐらいだから。  大学の講義を受けても、バイトに行っても頭が重いとか、感じた事ないんだよね…  「羨ましい…」   なんとか、昼過ぎから起きられた嵐さんは、企業と契約してるフリーランスのウェブデザイナーとか言うやつで…  もうその時点で、頭痛の原因を作っているようなものだよね。  「午前中…仕事出来なかったから。午後から部屋にこもるから…」  おいおい。  その考え方が、既に肩凝りと頭痛の原因を生んでんだよ!  「……分かった。僕も、午後から講義あるし。そのままバイトに行くから…」  「んーーっ…」  聞いてんだか、聞いてないんだか…  パタンと閉められる部屋の扉。  こもるって言っても、それなりにお腹が空けば、部屋からキッチンに出て来て冷蔵庫を物色して何か適当に食べ漁る。  まぁ…それは、いいとして…  こっちとしては、身体のためには、ちゃんと食べてもらいたい。  確か…明日賞味のロールパンが何個か、あったはず。  ラタスもハムもあった。  ロールパンに立ての切り込みを入れてレタスを差し込みその上にハムを乗せる。  本当は、卵を茹でて、マヨで和えたのをパンに挟みたいけど…  一度、吐いているし…  あっ!  昨日、作ったポテサラをパンで挟もう! それなら少しはお腹にいいかなぁ?…  ハムポテサラのロールパンサンドを、手際よく作りの冷蔵庫を開けて一番目立つ段にラップを掛けてしまう。  勿論、冷蔵庫の扉にはホワイトボードにロールパンのサンドイッチが、入っているから食べてね。と、書き込み。  顆粒のオニオンスープの袋をマグカップを一緒に添えて、テーブルに置いた。  「こんなもんかなぁ…」  それから聞いているかは、微妙だけど…  「じゃ…さっきも言ったけど、これから大学、終わったら。そのままバイトに行くから!」と、声を掛けた。  バイト先で、気の合う親友に今朝方あった話を、手短に伝えた。  「片頭痛持ちか…それは、大変だろうな…オレの家族にも、いるんだよ。直ぐに具合悪くなったりして辛そうだよな…オレには、分かんねぇーけど…」  「そうなんだよね…」  「そう言えば、よく効く市販薬が、あるってさぁ〜教えてくれたんだ。お前の知り合いにも効きそうじゃねぇ?」  「あっ、ありがとう」  友人は、そう言うとその市販薬のパッケージの写真を、見せてくれた。  「なるほどねぇ…」  買っててあげようかなぁ?  でもなぁ……  痛いは、顔色や仕草を見れば予想出来るけど…  その対処法が、問題なんだよね。  痛くなる前に薬を…って話を聞くけど…  嵐さんは、痛くなる前に飲むを、嫌っている。  「やだ…」  「やだ…じゃなくて、これから低気圧が来るんでしょ! アプリからも、通知来てるんでしょ!」  あからさまに嫌な顔をされた。  「分かったよ。好きにすれば!」  一緒に住む前から片頭痛持ちで、頭痛薬を常に形態している状態だったから。  善意で言ったら。この有り様。  余計なお世話だと言いたげな視線に、少しビクついてしまった。   「ゴメン。辛いのは、嵐さんの方なのに…余計なお世話だったね…」  「いや…別に、そう言う訳じゃないから。片頭痛は、ガキの頃からだし。ちょっとした事で体調も悪くなるから…」  結構、神経質な所もあるなぁ…とは、思っていたけど…  そう言う所でも、色々と気になって具合が悪くなるのかも知れない。  「自分のペースって言うと、言い訳になるけど、無理すると立てなくなるし。これでも…会社員だった事もあるんだ…でも、何回か倒れ掛けて…」  その頃になると、他からもフリーで仕事をしてもらえないか? って言う話も上がってて…    そこで、フリーに転職したらしい。  まぁ…それで生活出来るなら。  本人にとっても、周りにとっても、懸命な判断だったのだろうか?  ただ…  バイトから家に帰って来て…  僕が、用意したロールパンサンドを、全部食べてスープを飲み…  使った食器を洗って伏せるまでは、素晴らしいと思うけど…  気晴らしなのか…  ダイニングでゲームするって…  この人…  「人として、どうなの?」  「何が?」と、メガネ姿で振り返る嵐さんは、随分とサッパリしている。  つまり後は、もう寝るだけと…  大体、メガネでサッパリしている時は、風呂上がりと決まっているし。  前髪が長いからと、ヘアバン付けたり。今みたいに、ちょんまげ風に束ねて結ってみたりするときも、似たような感じだったりす。  しかも、缶ビールとポテチって…  朝のテンションだだ下がりの片頭痛で、グダグダして人として同じ人には見えない。  「何…突っ立てっての?」  「いや…具合は、良いの?」  「あぁ…お陰様で…」  と、まぁ…こんな感じのテンションだ。  これが、僕がよく知る嵐さんの通常体だ。  「夕飯は…食ったの?」  「まだだけど…」   上着をハンガーに掛けて、キッチンの造り付けの戸棚下から薬味の乾燥ネギの小袋を取り出す。  冷凍庫から冷凍の凍ったうどんを取り出し僅かにレンチンして温める。  その間で、鍋にお湯を沸かす。  途端嵐さんが、ゲーム中断せせて、ジッと僕を見ているみたいだったけど、そのまま無視して冷蔵庫から麺つゆを取り出し沸かしたお湯に対して目分量で味付けする。  その中にレンチンして軟らかくなったうどんを一緒に煮込む。  簡単に言えば、簡易的な煮込みうどんだ。  色々と考えたけど…  嵐さんの体調を考えると、消化に良いモノを食べてもらいたい。  うどんの味をみるために小皿におつゆ少し取って、口に含み確認してから。丼ぶりうどんをよそった。  思いの外に美味しくできたうどんに乾燥ネギを散らす。   と、ここで、再びジィーーッと、見詰めれる僕は、溜息を吐く。  食べたいなら。一緒に食べたいって、言えばいいのに…  …そう言えば、昨日茹でたブロッコリーと朝ロールパンサンドを作った時に余ったレタスでも、添える?  プチトマトは、切らしてたけど…  今の嵐さんには、酸っぱい食べ物は、食べさせない方がいいよな?  今度は、僕がちらっと前を見る。  いつの間にか後ろ向きになってゲームを再開したらしく、こっちを見向きもしない。  テーブルにうどんやサラダを並べているけど…  まぁ…いいか…  「頂きまーす!」  熱々で冷ましながら食べる煮込んたうどんは、美味しい。  チュルンと麺を食べたその箸で、茹でたブロッコリーを食べる。  やっぱり、マヨもいいけど…  フレンチ系のドレッシングも合うなぁ〜と、無心に食べる。  「所で…嵐さんは、食べないの? うどん冷めちゃうよ」  凄い速さで振り向くと、ゲーム類をそそくさ仕舞い。   ぱぁ〜とした顔のままテーブルの席に座り深々と頭を下げると、頂きますと言い。礼儀正しくうどんを食べ始める。  頭ちょんまげだけど…  「うまっ!」  それからは、ズルズルと勢い良く食べ始めた。  さては、コイツ。  僕が、お昼にって作ったロールパンサンドしか食ってねぇ~な?  「バレた?」  「あのさぁ…そんなんで、ポテチ食ってビールなんって飲んでたら…身体に悪いからね…」  こうやって、釘を刺すの何回目だよ。  「なぁ…」  「何?」  「あの居酒屋のバイトまだ続けてんの?」  「えっ…そうだけど…」  「何で、辞めないの?」  「あぁ…アレだよ。生活費分」  社会人の嵐さんと出会った大学一年の頃は、毎月金欠だった。  家賃は、両親が持ってくれていて、大学の学費は、学資保険から賄われている。  兄弟が、多くて僕の下に弟と妹が居る。  兄も、とある地方都市の大学に通っている。  大学に進学するのは、兄が大学を目指すと言った時点で諦めていた。  確かに両親は、役職でそれなりな額の給料を貰っているけど…  実質上生活費は、子供四人でそれなりに掛かるだろうし。兄が大学に進学するなら僕が、就職して一人立ちすれば…  僕の分が、浮く訳だし。  と、伝えたら。  “ 入学金は、払える宛があるし学費ならアナタが、子供頃から積んでるのがあるのよ。家賃なら少しは、出せるから。行きたい学校があるなら行きなさい。ただ生活費は、自分でバイトしてもらう事になるかなぁ… ”    そんな? 後押しもあって進学したけど…  親からの送金は、学費と家賃なので、早急に食費を稼ぐ必要があった。  早々に大学近くの繁華街で、居酒屋のバイトを見付け入学式当日からバイトを始めた。  時給は、それなりに良いけど…  月々の支払いや食費で、自由に何かを買うなんってことは、無理に近くて…   カツカツな生活をしていた。  まぁ…身体が、丈夫って事が取り柄だから両親には感謝しきれない。  そんな時にバイト先で、お客として来ていた嵐さんに出会った。  色々とあって、一緒に住むってなった時には、さすがに親に言わないとって事で、この辺りでは、老舗として有名な高級店の菓子折りを持参し。   挨拶に行く言うから実家に、案内しろと言われて案内することになった。  親に話すと、日曜の午後なら居るとのことで…  僕は、僕で…  嵐さんの事を、どう伝えようか迷ってて…  でも、親からしたら。  普通に息子が、帰ってくる。  そんな程度だ。  当日の午後。  インターホンを鳴らして僕だと名乗ると両親は、ニコニコといつもの調子で、出迎えたら。  息子だけじゃなくて、その隣には、少しインテリ系で、爽やか風な出で立ちの嵐さんの姿に目が、点になっていた。  おもいっきり。  顔の真ん中に、誰? って文字がくっきりと浮き上がっていた。  『はじめまして、兵藤 嵐と言います。息子さんの颯斗さんと、お付き合いさせていただいております。よろしくお願いします』  あんまりにも直球で、ストレートな言葉に同行者の僕も、お口あんぐりの状態だった。  付き合っている事は、事実だったし。  隠していても、いつかはバレるだろうなとは、思っていたけど、いや…でも、いきなり今言う?  僕が、どう伝えたらと悩んでいた時間をあっさりと嵐さんは、取っ払った。  でも、そんな嵐さんの行動もあってか…  かなりあっさりと両親は、僕達の事を認めてくれたらしい。  あとから母が、嵐さんって良い人ね。とか…  他の兄妹達から、  “ 同棲するんだってなぁ? ”   とか、  “ お兄ちゃん。やるじゃん! ”   とか、  “ にーにー。取り敢えず。おめでとう! ”   とか、家族とのメッセージ上で色々と祝福?…のメッセージが届いた。  流石にアバウト過ぎない?  うちの家族?  って、思いも半分だけど…  家族と嵐さんとの仲は良好らしい。その証拠に…  この前のGWも、帰省して挨拶するとか言ってくれて車を出してくれた。  たまたま居合わせた兄妹達と初対面なにも、関わらず楽しそうにしてた。  後からこれを、バイト先の気の合う親友に話したら。  「外堀埋められるって、そう言う事じゃねぇ?」  なんって、笑って返された。  そう言えば、兄は昔から事あるごとに僕を見ながら。  「兄貴が、欲しかったぁ…」と八つ当たってきたし。  弟は、テレビに出てくるような…都会のカッコ良い人(男女関係なく)に憧れてたし。  妹は、端からミーハー全開だし…  本当に、その全てを兼ね備えたような人が、僕が連れてきた嵐さんだったらしい。  でも、その帰りの車で体調不良で動けなくなった。  「あれ程、無理すんなって言ったのに…ほら。コンビニの看板見えてきた! 入ろうよ」  「悪い…そうさせてもらうな…」  道は、GWと言うこともあり一般道でも少し渋滞したり。ノロノロ運転が、続く中で見付けたコンビニの駐車場に停めた瞬間、嵐さんは運転席の椅子を即座に倒し寝転んだ。  それを見届けた僕は、コンビニに向かい冷却シートと水を買って車に戻った。  すると嵐さんの姿は、車の中ではなく。外の駐車場にあった。  「出歩いて、大丈夫なの?」  「気晴らしに外の空気を吸いに…」  「真っ青だよ。コンビニでいつも熱冷ましシートと水買ってきたから。一旦休息してから行こう…」  「いやでも…今日中に着かないと、颯斗は大学あるんだろ?」  無理にでも、運転席に乗り込もうとする嵐さんに対して僕は、あるものを顔面に突き付けた。  「これ…」  「運転免許ね。僕のね…」  「へぇ…」  「言ってなかった? この辺りだと免許を取るのは、普通。両親は勿論。兄も取得してるし。来年には弟が、取るって言ってるみたいだし。僕も、高三の夏休みに取ったんだよ。それに進学するまで地元では運転は、してたから…」  「…………」  「だから。助手席に座っててください!」  「…ハイ…」  まさか、こんな展開になるとは嵐さんでも、思ってもなかったんだろうなぁ…  エンジンを掛けると同時に「惚れそう…」とか言って抱き付いてきた時に尽かさず。コンビニで買った水と、常備していた鎮痛剤を嵐さんに飲ませて落ち着いてから帰路に付いた。  次の日は、言うまでもなく。  丸一日寝込んでいたけど…  家族皆からの印象爆上がりのメッセージが、届いたから。  嵐さんが、起きてきた時にありがとうって言ったら。照れたように僕が用意した薬を、その日は嫌がる事なく飲んでくれた。    で、現在。  居酒屋のバイト=生活費等の話しに戻る。  「だって、家賃は…折半ってなったのに…学生だからって、生活費だけ僕から貰うなって言いながら…毎月、突っ返されるし…受け取らないのは、どうして?」   「ん?………」   嵐さんの僕を、ジッと見詰めてくる視線を、かわすようにうどんの汁をすする。  別にむしゃくしゃしてる訳じゃないけど、なんか養われているみたいな…  そんな感じがして、うどんにガッツイてると不意に嵐さんは、笑い出した。  「口…汁でテカってる…」  口元に手をやると僅かに汁が、指についた。  随分とガキみたいな事してるかも?  「ハイ」    そう言って、僕に一枚。口も拭けるウェットテイッシュを取ってくれた。  「そう言う所、可愛いよ」  「どう言うところ? それとも、からかってるの?」  口元を拭きながら。僕は、そう口にした。  「何でぇ…?」  口調が、少し酔っ払っているみたいだ。  「お金の話しをしてるんですけど…」  「飯食ってる時まで、いいじゃんそんな話しぃ…」  「真面目なのか、不真面目なのか…いい加減にしてくださいね!」  勢いよく僕は、食器重ねて流しに持っていく。  よく見ると、嵐さんのうどんは、まだ少し残っている。  食べた食器は、使ったら直ぐに洗う様にと言われているから。  自分の分として僕は、食器を洗い。水切りのカゴに並べてから順に布巾で拭いていった。  横目でチラッと見ると、未だにうどんを食べ続けている。  まぁ…食欲があるようだから。食べられない分けじゃないと思うけど…  自分の分を片付けてから僕は、自室に戻り提出予定のレポートをまとめたり。  講義で気になった所をまとめたり。  それに基づいて調べたりしているうちに…  かなり時間が、経っている事に気が付いた。  昔から勉強は、嫌いではなかったから。テストや受験勉強にしてもこう言った感じに集中すると、自分が気付くか、誰かが声を掛けてくれないと、今みたくなる…  「あぁ…タイマーでも、掛けておくんだった…」  スマホを確認すると、まぁ…色々と通知が届いている。  しかも、例のアプリから低気圧が通過するお知らせが…    時刻は、日付が変わる頃だ。  シャワーでも浴びて寝ようか?  おそらく嵐さんは、もう寝てる頃だよね。  明日の朝にでも、バイト先で薦められて買ってきた頭痛薬を、渡そう。これは、小粒だらしいから薬嫌いな嵐さんでも、飲めるよね? と部屋を出ると、ダイニングの方にまだ明かりが付いていた。  嵐さんの事だから。消し忘れはないだろうと、そっと部屋を覗くと…  あのヤロー。  ヘッドフォン付けて、ゲームしやがってる…  ガチャと開けても、気付きもしない。  調子の良い時は、自分の好きな事を、優先したり仕事に没頭する。  で、力を使い果たしたようになると…  頭痛が、ぶり返したようにグッタリとなる。  日々それの繰り返しと言うか、絶対に身体を壊す生き方だよなぁ…  自覚も、してねぇーよなぁ…  ゲームに熱中しているのか、画面は何かの対戦ものである事にゲームを全くしない僕にも分かったけど…  遠目に嵐さんの顔を、チラッと見て分かった事が、一つある。  顔色めちゃくちゃワリ〜…  あぁ…もしかして、夕飯の頃には、低気圧の兆候でもあったのか?  「言ってくれないと、分かんねぇ…っての!」  僕は、嵐さんの手からゲームのコントローラとヘッドフォンを、同時に奪う。  慌てたように振り返るけど…  僕の気迫…とまではいかなくとも、言い知れない何かを感じ取ったようで……    即正座した。  しないと、怒鳴られるなぁ…   が、一番最初に、浮かんだ言葉だ。  出会って一年、付き合うようになって半年。同棲に至っても同じぐらい。確かに、長くはない付き合いだけど…  こう言う雰囲気は、日々何度も、繰り返している。  「その顔色どうしたの?」  声は、怒ってないみたいだけど、あの時みたいに優しい雰囲気があるように感じられるのは、俺が弱っているからか?    俺が、颯斗と出会ったのは、さっきも言ったけど、一年くらい前だ。  その日は、仕事の打ち合わせでとあるオフィスを訪れていた。  場所的なTPOもあり。  キッチリとしたスーツを着る羽目になっていた。  家での仕事は、普段着と変わらないから。俺にとってはスーツは、重苦しいものだった。  取り敢えずと、気分が悪くなっても思い酔い止めを飲んでみた。  待ち合わせの三〇分前に飲んだために打ち合わせ中は、何とか凌げた。   まぁ…打ち合わせは、仕事の日程や流れ。工程などのスケージュール管理だし。それが終われば速攻帰って寝ればいいと、安易に考えていたら…  どう言う訳か、その足でオフィスの代表の行き付けだと言う大衆向きの居酒屋に連れ出される事になってしまった。  その日は、夕方から例のアプリが、爆弾並に発達した低気圧の警戒情報を、前日から何度も通知してきていた。  だから吐き気止めを飲み打ち合わせに備えたはずが…  半日しかもたない薬は、その日の夕方には、切れかかっていた。  しかも、打ち合わせ中から既に軽い頭痛が出始めていて、その中での飲みへの誘いだ。  仕事を、回してくれた手前断れる訳もなく。持参していたマイボトルの水を飲みながら手に隠すように頭痛薬を飲み込んだ。  そう言う日に限って、薬というのは効かない。  いつもは、効くはずの薬が効かない事にマジで焦っていた。  理由を付けて、早めに帰ろうと焦れば、焦るほどに具合は、悪くなるもので…  飲み会の中盤は、冷や汗ものだった。  吐き気と頭痛が、ピークを迎えそうになった頃、俺はスマホに仕事についての問い合わせのメッセージが来たと言い。   席を外すと共に、この後も仕事が立て込んでいると話しを付けて、その場を退席したが、思うように動けず通路で立ち止まってしまうほど、身体の調子を崩してしまっていた。  ヤバイ。  タクシーを呼んでもらっても、間違いなく吐くな…  でも、これだと店にも迷惑を、掛けたしまうだろう。  「…あの…大丈夫ですか?」  そんな状況で、掛けられた言葉に思わず俺は、「…大丈夫じゃない…」と、言ったらしい。         後編に続く…        
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加