いつも大事にしているのに

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いつも大事にしているのに

 母が同居してから三郎の仕事は倍増している。  三度の食事の支度。母の色々な書類の切り替え。理事長の仕事。会社の仕事。  眼が回るほどの忙しさなのに、妻の五月はこれまで通り投稿小説を送ったり、猫の心配をしたりして暮らしている。  忙しすぎて、買い物も一人で行った方が早いので一人でさっさと済ませる。  はっきり言って、三郎はパニックに陥っている  こんなに大切にしているのに、五月から猫の事で文句を言われた。 「どちらかと言えば、猫は俺にとってどうでもいい存在なんだ。」  と言ってしまった。  だって、今は母の事で俺の頭はいっぱいいっぱいなんだ。  五月の事だってこれまで通りに大事にしているつもりだ。  そりゃ、五月がめまいがするって時に乗り換えのある病院に行くのに付き添えなかったけど。  猫のことを言ったら、五月は泣き出した。  泣きたいのは俺の方だよ。  五月がどんなに頑張らないで、家事を振ってと言っても今の三郎には伝わらない。  夫婦の間でそれぞれのパニックが広がっていくばかりだ。 【了】
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