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「確かに厳しい道だ。だが、もしもやる気があるなら来て欲しい」
シオが言う。そして、
「そう思うだろう? そこの、戦技校中等部一年首席、タロウ=イチザキも」
と、タロウくんの方を見て言った。
……ん?
中等部?
タロウくんは小学生のはず。
いったい何言ってるの……?
「バレてましたか、シオ=サノハラ先輩」
タロウくんが諦めたように笑った。
え。
タロウくん、もしかして、中学生?
ええええ?!
サバ読んでいたの?!
なんで?!
私はもう一度、パニックになった。
タロウくんはこっちを向いて、あっさり、
「すみません、俺実は一歳上の13なんです」
と言った。
「え、なんでわざわざ歳をごまかして小学生コースに? いや別にこっちは問題ないんだけどさ」
私が小学生コースだけを受け付けていたのは、単に中学生以上だと生意気そうだからって理由のみ。
だから別にいいんだけど……。
「アヤメ先生に教えてもらいたかったから」
タロウくんは言った。
「アイドルの頃から、ずっと憧れてた。攻撃魔法で圧倒する戦い方が。ずっと応援していました」
「そっか。……ありがとう」
なんだろう、純粋に嬉しい。
悩みながらアイドルをやっていたけど、私を見てくれる子もいたんだ。
感慨にふけっていると、シオが、
「教えてもらいたかった"だけ"ならいいんだけどな」
と、ひとりごとのように言った。
「仮に、俺たちがダンジョンに潜る日時を狙い、ダンジョン体験を名目にアヤメを連れて潜り、中層のドラゴンをわざと引きつけ、アヤメに魔法を使わせ、それを俺たちに目撃させる……」
「やだな、シオ先輩。そんな危険なことするわけないじゃないですか」
タロウくんがシオの言葉をさえぎった。
「そうだな。そんな危険なことを、仮にも戦技校の首席が実行するなど考えにくい」
証拠もないしな、とシオは付け足す。
私はただ固まっていた。
まさか、タロウくん。そんな事しないよね。……しないよね?
数ヶ月後。
私は戦技校の正門前にいた。
今日は面接の日。
これから指定された場所に向かう。
不合格かもしれない。
質疑応答で恥をかくかもしれない。
けれど。
私のことを見ていてくれる人がいる。
応援してくれる人がいる。
だから、がんばろ。
私は覚悟を決めて、一歩、足を踏み入れた。
終
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