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「なぐさめてくれてありがと、タロウくん。でも大人の世界は複雑なんだよ色々」
「納得いかないなぁ」
「私たちのグループは、リーダーを目立たせるためのグループだったからね。私が中心になるわけにはいかなかったの」
私は事情を話した。
ダンジョンアイドルグループは攻略は二の次。
魔物や宝箱にキャッキャしたり、戦闘時には会話や仲間との絆を見せたりして、視聴者に癒しを与えるのが仕事。
だから、輪を乱す私はノイズになった。それだけ。
「じゃあ配信者じゃなくて、ダンジョン攻略者にはならないの?」
タロウくんが不思議そうに言った。
……いや、無茶言うなし。
私は心の中でつっこむ。
ダンジョンのもろもろを配信して金銭を得るダンジョン配信者と違い、深層の未知なる魔物やアイテムを探すダンジョン攻略者は、エリート揃い。
実力が必要なのはもちろん、資格試験の難易度も跳ね上がる。
それに。
「ダンジョン攻略者って、配信者と違って深層や最深層に潜るでしょ。それってごくごく限られた人にしかできないことなの。例えるなら、そうだね、ロケットに乗って宇宙に行くのと同じくらいの難易度。タロウくんが目指すならともかく、私には遅すぎる」
私の言葉を聞いてタロウくんは、
「夢がないな」
と呆れた表情を向けた。
現実に打ちのめされている大人に、子供の素直な言葉が容赦なく刺さる。
子供の純粋さって、時として罪だね……。
私たちのやりとりを浮遊カメラがふよふよ飛びながら撮っている。
個人配信用として買ったやつだけど、高価で性能の良いカメラだから、バイトでも使っているのだ。保護者の見守り用アプリに動画を送るために。
ライブでも見れるし、後から再生して見ることもできる。
ダンジョン体験の記念として、さらに不正や犯罪防止として、保護者に人気のサービスだ。
私にとってはモンペやクレーマー避けになるというわけ。
それでも揉め事はあるけどね。いやんなっちゃうな大人って。
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