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地下10階へ
「さ、タロウくん、ここからは地下10階。初心者レベルから初級レベルになるよ」
階段のそばで私は言った。
タロウくんに注意事項を説明しながら、私の意識は同時に浮遊カメラにも向いている。
丁寧な指導をしていますよ、ですから次の機会があればぜひ私を指名してくださいね、という念を送る。
日々の営業努力というやつだ。
一方タロウくんは、
「やっと本番か」
と生意気なことを言った。
どうやら虫や小動物、スライムレベルの魔物退治では満足していないらしい。
初級魔法も披露したのに全然食いついてなかったもんな。
階段を降りる。
カツカツと響く靴音。たいまつで照らされる道。淀んだ空気。
ダンジョンに潜る醍醐味を感じる。
装備は完璧。心構えも十分。
なのに。
どうしてだろう。何か、嫌な予感がする。
「どうしたの、アヤメ先生」
後ろからタロウくんが聞く。
私は一旦足を止めて、言った。
「もしかしたら、ダンジョンが不安定かもしれない。何かあったらすぐ脱出魔法かけるから、タロウくん、そのつもりでいてね」
「不安定? そうは見えないけど。瘴気が漏れてるとか、壁や道が壊れかけてるとか、そういうのもないみたいだし」
と、タロウくんは言う。
よく勉強している。確かにダンジョン異変が疑われる場合、瘴気等の前触れがあるかを確認して判断する。
私は感心した。
ただ。
目に見える前触れがないからと言って、異変はないと思い込むのは、危険だ。
「タロウくん」
私は振り向いた。
いきなりの行動にタロウくんが驚く。
私はタロウくんの目をまっすぐ見て、言った。
「何があっても、パニックにならないで、落ち着いてね」
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