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階段から、タロウくんがひょっこりと顔を出した。
「アヤメ先生! さすがです!」
私に向かって、ぶんぶんと手を振って応える。
よかった、無事だ。
怪我もしていないみたい。
ただ。
手に何か持っているような……。
そしてそれを今、ポケットに隠したような……。
タロウくんの元に駆け寄る。
「石化魔法が解ける前に、上に助けを求めましょう。すぐに警備の人が見つかるといいんですけど」
「その前に。ちょっといい? タロウくん」
私はタロウくんのポケットに視線をやった。
「ねぇ、ポケットに、魔獣誘導用の布を入れてない?」
「あ」
「闘獣コロシアムとか、危険度Aクラスのダンジョン配信とかで使うレアアイテム……。もちろん持ち込み制限があって、通常時の使用は一律禁止になっている……」
「ごめんなさい……」
しゅんとしてうつむく。
こういう素直なところは、なんだかんだ言ってまだ小学生だな、と思う。
ただ……、とタロウくんは言った。
「これを使うしかなかったんだ。じゃないと、墜落して一時的に動けなくなったアヤメ先生に、ドラゴンが追加で攻撃するんじゃないかって思って……」
「タロウくん……。ありがとう」
だけど。
私は腕を組んで言った。
「結果的に助かったけど、持ち込み禁止品を持ち込んでたことには変わりないからね。今回は見逃すけど、普通はダンジョン立ち入り禁止にされるよ。それほどのことをしたんだって、自覚を持って」
もう12歳ならわかるでしょ、と私は叱った。
「今の一連のこと、カメラにバッチリ映ってるから、親御さんにも説明に行かなきゃね」
「え、そんな。親はカンケーないじゃん」
「関係なくない。親御さんからもしっかり注意してもらわないと」
余計な手間が増えてしまった。
けれどこれも指導の内。タロウくんの知識は本物だから、今のうちに反省して、正しい道を歩いてもらわないと。
それにしても、どこでこんなレアアイテムを手に入れたんだろう。
マニアってのは怖いな。
と、思っていると。
下から声がした。
「お嬢ちゃんたちぃ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどー!」
「降りてきてくださいー!」
なんか呼ばれている。
警備の人かな。もしくは巡回中の配信者?
……バレたかな。危険品の所持と使用が。
うちうちで処理する気満々だったのに、ややこしいことになりそう。
私たちは顔を見合わせる。
そしておそるおそる、10階の広場に引き返した。
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