地下10階へ

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 階段から、タロウくんがひょっこりと顔を出した。 「アヤメ先生! さすがです!」  私に向かって、ぶんぶんと手を振って応える。  よかった、無事だ。  怪我もしていないみたい。  ただ。  手に何か持っているような……。  そしてそれを今、ポケットに隠したような……。  タロウくんの元に駆け寄る。 「石化魔法が解ける前に、上に助けを求めましょう。すぐに警備の人が見つかるといいんですけど」 「その前に。ちょっといい? タロウくん」  私はタロウくんのポケットに視線をやった。 「ねぇ、ポケットに、魔獣誘導用の布を入れてない?」 「あ」 「闘獣コロシアムとか、危険度Aクラスのダンジョン配信とかで使うレアアイテム……。もちろん持ち込み制限があって、通常時の使用は一律禁止になっている……」 「ごめんなさい……」  しゅんとしてうつむく。  こういう素直なところは、なんだかんだ言ってまだ小学生だな、と思う。  ただ……、とタロウくんは言った。 「これを使うしかなかったんだ。じゃないと、墜落して一時的に動けなくなったアヤメ先生に、ドラゴンが追加で攻撃するんじゃないかって思って……」 「タロウくん……。ありがとう」  だけど。  私は腕を組んで言った。 「結果的に助かったけど、持ち込み禁止品を持ち込んでたことには変わりないからね。今回は見逃すけど、普通はダンジョン立ち入り禁止にされるよ。それほどのことをしたんだって、自覚を持って」  もう12歳ならわかるでしょ、と私は叱った。 「今の一連のこと、カメラにバッチリ映ってるから、親御さんにも説明に行かなきゃね」 「え、そんな。親はカンケーないじゃん」 「関係なくない。親御さんからもしっかり注意してもらわないと」  余計な手間が増えてしまった。  けれどこれも指導の内。タロウくんの知識は本物だから、今のうちに反省して、正しい道を歩いてもらわないと。  それにしても、どこでこんなレアアイテムを手に入れたんだろう。  マニアってのは怖いな。  と、思っていると。  下から声がした。 「お嬢ちゃんたちぃ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどー!」 「降りてきてくださいー!」  なんか呼ばれている。  警備の人かな。もしくは巡回中の配信者?  ……バレたかな。危険品の所持と使用が。  うちうちで処理する気満々だったのに、ややこしいことになりそう。  私たちは顔を見合わせる。  そしておそるおそる、10階の広場に引き返した。
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