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「次は兜塚駅ー兜塚駅―お降りの方はお忘れ物など無いよう…―」
列車のアナウンスに僕はハッとして居眠りしていた目をパッと見開いた。
兜塚?何処だ、それは?
この処ずっと仕事が忙しく家庭内もグシャグシャで、何もかもが嫌になって、仕事に行く筈の電車には乗らずに、いつもとは違う路線を適当に乗り継いで、気が付いたら車窓から見える景色は全然見覚えの無い、民家も殆ど…いや、見える範囲には全く無いような寂れた場所になっていた。
オフィスビルが無いのはいい。
上司からはあれこれと無理難題を押し付けられ、部下からは何かというと『ハラスメント』だと叩かれる。
そこそこ大きな会社の中間管理職といえば聞こえはいいが、入社したての平社員よりずっと損な役回りだ。僕も新入社員に、まだ独身だったあの頃に戻りたい。
「あたしと結婚した事、後悔してるんでしょ!?」
ここ数年というもの、妻は事あるごとにヒステリーを起こし、口癖のようにそう言って僕を責める。
結婚して6年も経つのに子供が出来ないのを負い目に感じて、それを僕に責任転嫁しているのだ。
僕は特に子供が欲しい訳ではないと、一生出来ないなら出来ないでもいいのだと言っているのに、妻は子供を欲しがった。
僕や妻の両親が、「子供はまだか?」とか「早く孫の顔が見たい」と、たまに会う度にせっつくのだ。
「お隣の奥さん、二人目を授かったんですって……」
俯いたまま、そう無表情で呟く妻。
憔悴した顔で、「あたし、不妊治療したほうがいいかしら…」と力無く言ったかと思えば、「ねぇっ、あなたに問題があるんじゃないの!?」と、鬼気迫る顔で僕に摑み掛かって来る。
ただでさえ仕事で疲れているのに、「今日は排卵日なのよ!!」と、僕に子作りを強要するだけでも勘弁してくれってくらいなのに、不妊治療まで「協力して!」と、病院通いまで強要する。
挙句、「このタネ無しっ!」と汚い言葉で僕を罵倒する。
もういい加減にしてほしい。そんなに子供が欲しいのか?
僕は疲れてるんだ。子作りにまで精を出してる余裕なんか無いんだ。
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