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「やっとできた」
生際完治は医薬品メーカーを定年退職した化学者だ。現役時代長年育毛剤を研究してきた。だが商品化にいたらなかった。それが遂に完成したのだった。完治は退職金をつぎ込んで独力で開発を継続していた。
完治は禿てないので自らが被験者になりえない。誰か協力者が必要だった。完治の頭に町内会の寄り合いで知り合った禿げ頭三人組が真っ先に思い浮かんだ。
左隣の伸一爺。向かう隣の昇爺。その三件先の延三爺だ。
彼らに頼むには...
完治は一流の研究者らしくしばらく沈思黙考。
「よし、これで決まりだ」
三人の爺さんは完治と麻雀ゲームの仲間でもあった。ゲームを楽しんだ後は一位がビリからその日の銭湯代を立て替えてもらう。風呂上がりにはコーヒー牛乳を奢ってもらうのが習わしだった。
完治は退職したとはいえ今でも頭を使う。深謀遠慮、ゲームにめっぽう強い。常に圧勝、連戦連勝だった。この三ケ月、完治は他の三人に大きな貸しができていた。
ある日のこと、湯船で共にくつろいでいた三人に完治が言った。
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