【短編】溶けてしまえば

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「わたしが、僕が、愛してあげる。」 暗闇が二人を飲み込みそうな夜。いつも僕を支えてくれる君のことを抱きしめた。顔を見られたくないだろうから。僕の泣きそうな顔を見せたくないから。 愛し方なんて分からない迷子は僕も一緒。それでも君を大切に思っている気持ちは嘘じゃない。 たくさん間違えることなんて分かりきってる。傷つけるかもしれないことも。僕を植え付けるようなその言葉は酷いことも。決して分からないわけではない。それでも今、君が夜に溶けてしまいそうなのが嫌だった。 物理的に一緒にいられる距離ではなくなった今。僕は一人で海に来ていた。 傷つけたくなくて突き放したり。嘘をついたり。残念ながら御伽噺のようにきれいに愛することはできなかった。結局は僕も迷子だからだ。それを彼がどう感じてきたのか、感じているのか、僕には分からない。 何百という夜を越えたが、僕はそこで止まったままだった。それはむしろ僕の心を蝕んで、取り返しがつかなくなっていた。 「幸せになってほしいなあ。」 ポツリとつぶやく声は誰のところにも届かずに消えていく。ずっと願っていたそれは、僕ではできないのだろうと薄々感じてはいた。どうしようもない気持ちが溢れてきて、涙を堪える。僕の代わりに泣くみたいに、波が何度も何度も押し寄せた。 今、溶けてしまえば。あのとき、溶けてしまえば。 彼の隣で幸せになる未来があったのでしょうか。 いるかも知らない神様に投げかける。 それでも間違った愛を捨てられない、どうしようもない僕はその場を後にした。
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