0人が本棚に入れています
本棚に追加
「わたしが、僕が、愛してあげる。」
暗闇が二人を飲み込みそうな夜。いつも僕を支えてくれる君のことを抱きしめた。顔を見られたくないだろうから。僕の泣きそうな顔を見せたくないから。
愛し方なんて分からない迷子は僕も一緒。それでも君を大切に思っている気持ちは嘘じゃない。
たくさん間違えることなんて分かりきってる。傷つけるかもしれないことも。僕を植え付けるようなその言葉は酷いことも。決して分からないわけではない。それでも今、君が夜に溶けてしまいそうなのが嫌だった。
物理的に一緒にいられる距離ではなくなった今。僕は一人で海に来ていた。
傷つけたくなくて突き放したり。嘘をついたり。残念ながら御伽噺のようにきれいに愛することはできなかった。結局は僕も迷子だからだ。それを彼がどう感じてきたのか、感じているのか、僕には分からない。
何百という夜を越えたが、僕はそこで止まったままだった。それはむしろ僕の心を蝕んで、取り返しがつかなくなっていた。
「幸せになってほしいなあ。」
ポツリとつぶやく声は誰のところにも届かずに消えていく。ずっと願っていたそれは、僕ではできないのだろうと薄々感じてはいた。どうしようもない気持ちが溢れてきて、涙を堪える。僕の代わりに泣くみたいに、波が何度も何度も押し寄せた。
今、溶けてしまえば。あのとき、溶けてしまえば。
彼の隣で幸せになる未来があったのでしょうか。
いるかも知らない神様に投げかける。
それでも間違った愛を捨てられない、どうしようもない僕はその場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!