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話がまったく見えない。
子狐の弟子なんて取るつもりはないが、そもそも事情がまったくわからないので反応しようもない。
「とりあえずお前、そこにお座りしろ」
「ハイ!こうですか!」
「素直かよ」
切株の上にちょこんと座る子狐。普通に可愛い。俺がモフモフ中毒者の人間だったら、「んんんんんんんんんんんんんんんんんんかんわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいひゃっふううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」と奇声を上げながら飛びついていたかもしれない。この世の中に、人間ほど奇特で謎で変態なイキモノはないと知っている。
「俺の弟子ったって、何の弟子だ?そもそも、何で弟子入りなんかしてえんだよ」
俺は子狐の足をつんつん突きながら言った。
「俺はカラス、お前は狐。しかもおめえ、まだ子狐だろ。こんなところに一人で来たらあぶねえだろうが。さっさとママんとこ帰んな。種族も何もかも違うのに、子弟関係が成立するかよ」
「やだ、帰らない。ていうか、学校サボってきてるから帰ったら叱られちゃうもん」
「サボってんのかよ!確かに平日の午前中だけども!」
「種族なんて関係ない。ぼくは、カラスさんの弟子になりたいんだ。ならなきゃいけない理由があるんだ」
何故なら!と子狐はぴん、とシッポを立てて見せた。
「カラスさんこそ、ぼくが考える……最高の悪役の象徴だから!」
「はああああ!?」
一体何を言い出すんだこいつ。俺はあんぐりと口を開けて固まってしまう。
「童話の世界では、悪役って決まってるじゃん。大抵黒くて怖いイキモノなんだよね。カラスさんは魔女の手下になって悪さをすることも多いし、黒々とした大きな体のクマもそうだし、狼だって赤ずきんや子山羊の敵として登場するじゃないか。つまり、悪役って言ったら君達なんだよ」
びし!と前足で俺を指し示す子狐。
「ならば、悪役を目指すなら!その人達に弟子入りするのが一番わかりやすいと考えたってわけ!ちなみにクマさんには“そんなメンドクサイことしたくない”って怒られたし、オオカミさんには食べられそうになったので、最後の砦はカラスさんしかいないんだ!」
「ちょおおおおおおおおおおお既に食べられそうになってんじゃねえかオオカミに!その時点でやめとけよ!!」
「いーやーだー!だってぼくは、最強最高の悪役にならないといけないんだもの!」
だって、と子狐はしょんぼりと耳を下げる。
「だって……そうしないと、誰もぼくを認めてくれないんだ」
その言葉で、俺はなんとなく察してしまった。さっき彼は、童話の悪役として登場する生き物の名前を挙げたが――その実、キツネも大概なのだ。大抵はずるがしこい小悪党として登場する。他の実例と違って真っ黒な体毛を持つ者はほとんどいないが。
「学校でいじめられたのか?」
俺の問いかけに、子狐はこくんと頷いた。
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