混乱百花繚乱

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『令和後期。所謂、令和アルマゲドンの日。A製薬会社が妙な薬を作り。その薬が流出しました。 その薬はなんと人をゾンビ化する薬でした。そして、あっという間に日本はゾンビに占拠されました。世界にも広がり人々は大パニックになりました。 ……こう書くと、とてもチープ過ぎてフルプライスのクソゲー臭がしますね。わかります。私もそう思います』 と、そこまで手紙を書いてから、うんっと背伸びをした。 ここは防衛戦を築いたアジト。元精神病院を改造した場所。その病室の一室。 大部屋をベニヤ板で区切って無理矢理、四人分の部屋をプライベートゾーンを確保している。 そんな場所で手紙をしたためていた。 ベッドに小さな机とデコボコのロッカー。 それが与えられたパーソナルスペース。 貴重な灯りは既に電源から落とされて、部屋のメンバー達はすやすやとした寝息を奏でいた。 カーテンの向こう側、窓ガラスには鉄柵があり、月の光も乏しい。 しかしゾンビ避けの紫外線サーチライトが、防衛線をずっと照らしているので。カーテンを少し開けた状態でも、窓際のここはそれなりに明るい。 「ま、あんまり目にすると悪いんだけどね」 でも私には関係ないこと。むしろ、真っ暗な闇でも問題ないと思い。また手紙に取り掛かる。 『でも、本当の事を書いておきたくて。令和アルマゲドンドンから二十年。主要な都市は壊滅的でデジタルコンテンツは瀕死。アナログこそ最強なのです。私もいつ死ぬかわからないのでどうか、勘弁して下さい。出来るだけエモく書きます。 で、この手紙を見られたと言うことは、私はきっとこの世に居ないでしょう(これを一度書いてみたかった) 美少女が露に消えたと、ゾンビ絶ゆる! と闘志を漲らせて下さい。そして私の仇を……』 ノック部分にうさぎが付いたペンをくるっと回して。 「仇を取って貰ってもなぁ」と、小さく呟いてから『私の仇より』の部分を消して。 『そして、少しでも長く生きて下さい。それから地下に逃げ込んだ、A製薬会社の奴らをはっ倒して下さい。あいつらはゾンビよりムカつきます』と、書き直した。 そして、A製薬会社の避難地下シェルターの地図をしっかりと貼り付ける。 ついでに、机の下からこそっと秘蔵のチョコバーを取り出す。 既に昼間に半分食べてしまっていたが、朝が来ると私はA製薬会社避難、本部シェルターと言われているポイントに出撃する。 そのポイントは既にゾンビの巣となっていて突破して、本部シェルターに辿り着いたとしても。 そこがだとは行ってみないとわからない。また(デコイ)かもしれない。 それでもA製薬会社のシェルターには大量の食料品、医薬品がある。しかも最近の噂では対ゾンビワクチン出来たとか。 「あいつら、このまま何十年と引き篭もっていて。地上で私達とゾンビが共倒れするまで出てこないなんて、マジだるいのよ」 ゾンビは強力な再生力を持っているが、限度がある。人間(エサ)さえ食べなかったら十年ぐらいで死ぬ。特に紫外線はそれを促進させる効果があるらしく昼間のゾンビは動きが鈍いし、紫外線を嫌がる傾向がある。 「けど、雑食で何でも食べる。腹が減ったら草でも食べて生き延びようなんて、意地汚いつっーの」 ゾンビになるのにはゾンビに噛まれ、血液にゾンビの体液が入ったら二、三日でゾンビ化がセオリーだけれども。今はもはやゾンビ化になる前に、エサとして食われる事がほとんど。 私達人類は、絶滅危惧種並みに令和アルマゲドンより人口を減らしていて、最早地上はゾンビパラダイスと化していた。 ふざけるなよと思わず、チョコバーを握り潰しそうになり、慌てて頂きますとバーを齧る。 「……っ〜〜!」 (美味しいっ! これよ、これ! ガツンと脳に響く甘さ。糖分最高ー!) あまりの美味しさに叫んでしまいそうになるのを堪えて、ゆっくりと咀嚼する。 昼間は健診の採血へのご褒美として食べていたけれども、何度食べてもチョコは美味しいのだ。 明日、出撃してまたここに戻って来るなんて、保証なんかどこにもない。 別に死にたい訳じゃない。それでも楽観視なんか、ミリも出来ないと自覚していた。
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