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それから、月に一、二度志恩はユキさんと飲みに出るようになった。この一年ずっとバンドのメンバーとは会っている様子もなかっただけに、彼の中に何か変化が起こっているのを感じていた。
「今日もユキと飲んでくるけど、そんな遅くはならないと思うから起きて待ってて」
ある日、珍しく志恩がそう言って夜出掛けて行った。いつもは寝てて、と言って家を出るので、なにかあるのだろうと思うのは必然だった。お風呂での読書もどこか上の空で、私は今日彼がなにを話すのだろうということにばかりに思考がいっていた。梅雨もとっくに終わり、夏真っ盛りの浴槽は39度。それでも風呂上りにはたっぷりと汗を掻くけれど、本当は毎日でも浴槽に浸かりたい私としては構わなかった。
22時前にお風呂から出て髪を乾かしていると、脱衣室に志恩がそっと顔を出した。
「ただいま」
「おかえりなさーい」
言って、私はドライヤーを止めると抱きつくように彼にキスをする。毎日仕事終わりの彼にそうするように。お酒の香りがわずかにする程度で、本当に今日はあんまり飲まなかったのだな、と半ば驚いていた。
「とりあえず、髪乾かしたら」
彼にそう促され、私は渋々といった感じで首に回していた腕をほどいた。出掛ける前にシャワーを浴びた志恩は、寝間着に着替えるために寝室へと向かっていったのだった。
「で、さ」
「ん?」
二人で並んで、ひとまずお酒を並べていた。志恩はビール党なのでいつも通り缶ビールを、私はたまに一緒に飲む用に用意しているウイスキーを炭酸で割ったグラスを。そこに、脈絡もなくまた彼が口を開いたのだった。
「ユキと最近よく飲んでたじゃん」
「そうね」
「ずっと、説得されててさ。……その、バンド戻ってこないかって」
予想していただけに驚きはしなかったものの、その話をするということは、と私はつい先の言葉を期待してしまう。
「うん」
促すように一つ相槌を打つ。
「………戻ろうかと思って」
それはそれはバツの悪そうに言う志恩を私は笑いを堪えながら見ていた。私に言われたときは断固として拒否した話題だ。バツが悪くて当然だろう。それでも、やっぱり未練を滲ませていたのを、私は幾度となく感じている。
「いいんじゃない」
何食わぬ顔で返す。こういうときは、多くを語らない方がいい。間違ってもいじってはいけないことも分かっていた。
「やっぱり、ギター、好きなんだよね」
鼻の頭を掻きながら、照れくさそうに話す彼は可愛かった。
「知ってたよ」
だから、私はそう返した。知ってたよ、そんなの。ずっと見ていたんだから。
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