第2話 アリスからの手紙~SIDEニコラ~

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第2話 アリスからの手紙~SIDEニコラ~

**********************  二コラ・ラスペード殿下へ  今日もお迎えにきていただき本当にありがとうございます。  あなた様の婚約者になってもうすぐ一年となります。  母が魔女であり王族の皆様にお世話になっているとはいえ、  爵位としては子爵、そして没落寸前の田舎者の私を殿下は優しく迎えてくださいました。  私にはもったいないほどの素敵なお方です。  酷い傷を負って帰ってきたと聞き、急遽実家に帰らせていただき、  ありがとうございました。  母は旅立ってしまいましたが、最後の瞬間に立ち会うことができました。  殿下もご存じの通り、  私の父は病にかかっております。  治療薬の研究をしていた母の手帳を頼りに、私は旅に出たいと思います。  これ以上、父を辛いめに……苦しいめにあわせたくないのです。  母が私に遺した手帳には  クルーズトレイン クレセント号の切符が挟まっていました。  クレセント号の停車駅の街のいくつかに印がつけられていました。  きっと何かあるはずです。  きっと父の治療薬の手がかりが……。  こんなわがままな私で申し訳ございません。  咎めもなんでもお受けします。  ですが、どうか、どうか父の治療薬を、  そして母に何があったのかを知るまで待っていただけないでしょうか?  結婚式の日までには必ず戻ります。  それまでお体に気をつけてお過ごしください。  あ! フィード様を困らせてはいけませんよ!  殿下はいつも無理難題をフィード様に仰っていますから。  では、またお会いできるのを楽しみにしております。                         アリス・ポートリエ』 ********************** 「最後はフィードのことじゃないか」  私はアリスの実家のテーブルに置かれた手紙を読んでいた。  今朝方、ミレーヌ様のご容体やアリスとポートリエ子爵の様子が気になって早めに出てきたが……。 「申し訳ございません、殿下」  目の前ではポートリエ子爵が頭を下げている。  アリスが旅に出たことを大変申し訳なさそうに私に伝えてくれた。  きっと私が来るからと着替えはおこなったようだが、いつもの口数は少ないが凛とした子爵とは別人のようにやつれている。 「子爵、アリスは必ずあなたの治療薬の手がかりを持って帰ってきますよ。だから、帰ってきたら叱らずに迎えてやってください」 「恐れ入ります」  私は子爵に微笑みかけると、手紙を大事にしまった。 「フィード」 「はい」  私の後ろに控えていた護衛騎士のフィードが返事をした。 「お前の名が最後に書かれてあったのは不問にする」 「殿下、不問でなければいささか理不尽です」 「うるさい。さあ、行こうか」  私はポートリエ子爵に挨拶を済ませると、馬車に乗り込んだ。 「フィード、わかっているな」 「はい、アリス様へのあなた様の愛は溺愛を通り越して執着にすら感じるほどですが、クレセント号の駅へと向かいます」  私は満足そうに笑みを浮かべると、手紙を取り出して見つめた。  婚約破棄かと最初は思ったが、きっとアリスのことだ。  そのつもりはないのだろう。  相変わらず君は、自分を低く見積もって遠慮をしている。  君の努力家で家族思いなところが私は好きなんだ。  アリス、君の探し物を一緒に見つけさせてくれないだろうか。  必ず私が守って見せるから、だから一緒に君の使命を背負わせてくれ。
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