6・彼はヘンタイか

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   しかし、彼は思いなおしたように目を閉じる。斜めに一度下げる頭。そしてあげる顔が晴れ晴れとしている。期待感みたいなものも窺えた。 「そうか。ここでは虫とかもいるからな。お互いの気持ちは尊重しよう」  今更言われても遅い。感謝なんてしないが、中止してくれるらしいから水を差すこともない。心臓の早く打つのが感じられたけれど、やっと状況を身体が理解したのだ。まだ、油断はできない。  性的錯誤には、軽い加虐行為も含まれる。濡れた服や暑がって汗をかくのを、みて楽しむことや、制服に執念を燃やして、無理に着けさせることもある。もっとも遊びと割り切った付き合いをする方たちからすれば、これぐらいは正常の内らしい。美咲には不本意な状況がすべて変態的な行為として感じられた。  服を整える美咲に憲治も余裕のある顔で話す。 「ぼくの気持ちが通じて嬉しいよ。美咲ちゃんのような子は初めてだ」   変態の気持ちなどわからないが、それを顔にだすわけに行かない。小刻みに震える指でベストのボタンをかけ終えて、訊ねる。 「どこか、近くにない、コンビニとか」  小さな声になるのも、いまごろから恐怖が身体を揺さぶるから。相手の意見を尊重したほうがいい。このプレイへ乗り気だと最後まで演じなければ。 「レストランがあるさ。食べてから、お楽しみとしよう。君は待てるかい」   嘘はつけないが、断るわけにいかない。ここでは二人だけなのだ。逆上した者の見境ない行動はテレビでも放映されている。 「それより。我慢してた」  なにを堪えていたかは言えないが、憲治は自分なりに解釈したらしい。自動車を走らせながら話す。 「景色の見える窓際が空いていたら好いのだが」  急ぐように速度もあげた。それなら早く行った者が先に座っているはず。でも、うなずくだけだ。どこでも勝手に座り、食べて飲めばいい。女性がこんな汗を滲ませた服のまま行けますか。不細工なデザインでも制服だから、個人的なセンスを疑われることもないけれど、しわくちゃで乾いてもない服には常識も疑われかねない。
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