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公園へは行かないと決めた。空いた心は軽い思いにもさせる。
(変態で女心も知らない男なんて頼まれても付き合ってあげない)
理想的男性なんていない、と投げやりな気分にもなる。
(恋なんて心を束縛するだけよ。恋をしてないほうが自由なの)
それで楽しい気分になりたいけれど、強がりの部分もある。こうして憲治も過去のほろ苦い思い出になるのだろう。
無意識に公園へ向かう足。木魔王並木の入り口で引き返す。三日もすると、自然に県道のほうへ歩けた。途中で憲治に会わないか不安もあったが、日の入りも遅くなり、公園でゆっくりペロを遊ばせているのか鉢合わせしない。
佳子は相変わらず、いい男の自慢をする。何人とデートしたか、深い仲になったかは聞かないし、予想つく。いままで知っているので三人だが、そんなものだろうと思う。
変に一体化を求める友情とは縁の薄かったのが美咲と佳子の共通点だ。距離の取りかたが合っているから友達とも呼べる関係を続けさせている。佳子にとって、卓也は遠い世界の存在で、声をかける男性たちこそ現実と思っているのだろう。美咲にとっては、憲治もそのような存在でいたほうがよかったかもしれない。
☆
身も心も軽くすごす真似はいいけれど、それがパンクしたタイヤみたいに美咲の心もしだいにひしゃげ潰れてくる。強がりも、心の奥にある空虚さが、ブラックホールとなり吸い込んだ。
(放課後の教室みたいな、おしまいになっちゃった暗いボーリング場の中にも似てるかな。一人いるはずの私さえ存在してないような気持ちになるときがある)
初恋の相手と高校が分かれたときに初めて、自分の中にあるその場所を認識した。なにもない侘しさは、かつてはなにかが存在していただろうと予感もさせる。異性への興味は、その場所を埋めたいから生じると感じている。前の恋人では埋められない穴だった。心の中か、頭の中か、正体もつかめない。
なにかへの飢餓状態が寂寥感を起こさせると考えている。忘れさせるのは恋かもしれない、と異性へ答えを求めたわけだけれど、依然として、その場所へ招きいれる、ものと意味がわからない。憲治は虚無感を忘れさせたが、なにか違う気がする。
(男との秘めた体験で埋められる部分はあったけど)
男性へ思いを寄せるのとは違う、と気づきだしてもいた。しかし、寂寥とした場所が自分の重要な一部に思えて、十代のころよりもその場所を埋めたい思いは強くなっている。
ひとときでも忘れるために、異性と交際して、情けと打算と諦めなどの偽物で、その場所をごまかすのか。寂寥とした場所の暗さから抜ける、それ以外の方法なんてまだ知らない。
男性への不審感が増えたいま、自分が川面に映る月にも思えた。絶えず揺れて、細波にも消される。そうしながらも、週に一度の休日は訪れた。
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