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それから、いつまでだろうか仲良くしていたのは。小学校に通うころは付き合いもなかった気がする。高校一年のとき一緒に歩くまで、ただの同級生で、親友と呼ばれることもしてない。
「寂しかったね」
共通点を探すとしたら保育園のころ、同じ心境だったのは確かだ。
「でも、ミキがいたから」
「ナッチが教えてくれたんだよ。絵の描きかた」
大げさに考えたら、美咲のほうから恩人と呼びたい関係だ。
「絵の。うーん。覚えてない」
記憶に薄いらしく、とぼけているようすもない。
「覚えているのはさ。いつも遊んでたこと。みんなが帰ってから、ママが迎えに来るまで、ミキは一緒にいてくれた」
「そうだったかなー」
どのような状況なのか記憶はない。いつも近くにいた思いがあるだけだ。
「いいさ。あれから親友と決めたんだ」
「言葉も知ってたの」
「こんなのが親友だな、と感じたのは小学生のとき。そんな小説があったでしょ」
「あれね。友達との約束を守るために、捕まりに走る話。そんな大事かなー」
トラブルとか事件もなかったと思う。なんなの、とここまできたら知りたいと問う。奈美も少し照れたが教える。
「ママがふたつ仕事を始めて、迎えが遅かったんだ。それで、ミキも残ってくれた。お祖母さんやお父さんに急かされても帰らなかったでしょ」
「そんなことあったかな」
何気なく二人っきりと思っていた。当時の気分は覚えている。
「似てたね。お互い帰りたくなかったんだ家に」
保育士へ安らぎも感じていたし、その空気の中にいたかった。
「高校のころまでは、ひきづったってことさ」
奈美が、もう過去みたいにさっぱりした顔で言う。満たされないなにかを、別ので紛らわせようとしていたのは、同じだ。
「高校までね」
呟くけれど、いまもそのかけらはある気がした。それが寂寥とした思いにさせる。しかし、奈美と話していると、そこへ暖かい風が吹き込む感じもした。
赤ちゃんがむつかり始める。じゃ今度、と奈美は立ち上がりながらあやす。丘の中腹に旦那の実家があり、一緒に暮らしていると教える。
奈美が親友と呼ぶ理由はわかった。でも、少し思い込みすぎているとも思う。それの理由も予測つく。
(ナッチは私より辛かったってことだよ)
母親が離婚して、二人で暮らしていたらしいのは、小学生のころ知った。家に帰ってもだれもいない、保育園に通うときから経験していたのだ。考えれば、話をしなくても近くに奈美がいるという場面が、高校卒業までかなりあった。
遊んでいたころが懐かしくなる。喧嘩もしたし、共有する思い出もできたけれど、それは些細なものかもしれない。いままで積み上げてきたものを、さらに上乗せして行くだけの未来がある。その根底に流れるのは、母の日の似顔絵だったりするのだろう。
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