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11・友情はお節介するもの
朝から降る雨は秋津入りなのか、止むこともなく空の笑顔を隠す。そんな時期に月見会があった。月なんて見ない、同僚たちと居酒屋で食べたり飲んだりするのが目的だ。
早くきた美咲と佳子は準備された座敷席の縁あたりに座る。紗八菜のことで、なにか話もあるらしい佳子。
「ミイの話では、安浦さんもサーヤと縁は切りづらいみたいだから、くっつけちゃおうか」
この前は翌日に紗八菜のことを聞かせて、会いにも来ていた。
「サーヤが言うんだから。安浦さんもちゃんとした恋人を作って欲しいよ」
いつも誘われて迷惑だ、と美咲。それが危ない恋に陥らない安全弁にもなると思っている。問題は、正樹がどれぐらい紗八菜を思っているか、だ。
「試そうか。私に考えがある」
悪戯魔女みたいな顔で言う佳子。おとなの男性とはいえ、女性としての立場からは遠慮することもないと思っている。
「近いうちに。それで、どうするの」
「休憩時間に、鎌をかける。うん。ちょっと。詳しいことはこれから考えるけど」
任せようと思う。美咲には上手く訊き出せる方法は思い浮かばないし、友達なら大丈夫と感じた。
それよりと、奈美のことを思いだす。佳子も同じ同級生だ。
「そうだ、ナッチに会った」
「ナッチ。ああー。奈美。たまに会っていると思ったけど。親友とか言ってたし」
「あまり付き合いはなかったから。でも、親友だよ」
いまではそう思う。子供を産んでたことに、佳子も、ちゃんと籍は入っているのか気にする。高校時代の印象では、おとなしく主婦をする女性に見えなかったのも確かだ。
「変なところもあった。一年生のとき、陸上部のキャプテンに何回も会いに来ていた」
「なぜ知ってるの」
陸上部は部員も少なく三年生の男子がまとめていた。
「付き合ってた」
舌をぺろっとだす佳子。キャプテンは真面目で、男女交際や遊びまわる生徒たちにも批判的な目を向けていた。佳子と付き合うのも、友達の魅力からだろうが、奈美と話が合うわけもない。美咲も最初は冷たい視線を感じていた。あとから訊いたけれど、と佳子は教える。
「陸上部へだれか誘って欲しかったみたい」
「それは無理でしょ。やりたかったら自分で来るとの考えだったし」
入学したころも勧誘や、先輩たちから誘いはなかった。美咲を誘った友達も、大丈夫かなここの陸上、と言いながら入部したのは覚えている。
「彼は、自分で口説いてごらん、と言ったみたい。それから来なくなったのは確かよ」
「それで。いつも変なことを言うと思ったけど」
「ミイのことだと、あとから知ったけど。ほんと、真の友かも」
奈美は作戦を変えて、美咲と一緒に部活動をしていた友達に話を持ちかけたのだろう。
「お節介なものだわ、友情って。会ってばかりが良いもんでもないだ」
見えない糸のような人間のつながりに鈍感だったと気づく。それなら、と美咲もなにかしたい気がした。隣で、いつまでも本気の恋からは逃げている友達にお節介もしたい。
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