3話・帰り道は遠かった

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 高校へ入学したころはお洒落や遊びに関心があった。暇という理由で、保育園から一緒だけれど、あまり付き合いもなかった奈美(ナミ)と話したり歩く機会が増えた。彼女は背丈が同じぐらいで華奢だ。泣きそうな表情と思える顔が、男の子たちに別の見方をさせたらしい。いまだから言うが、と好意を持っていたと話す男性も三人知っている。  ゴールデンウィーク前には五人のグループで行動するようになる。週末に賑やかな市街へ行こうとの話は冒険でもあり、友達がいれば平気と思っていた。しかし、奈美が言う。 「どこか悪いんだよ。途中気絶するよ」  そして、小学校時代のことを喋る。登校途中、野良猫に睨まれて、まわり道をして遅刻したのだ。先生へ、遅れてすみません、も言えずに震えて、保健室に直行させられた。長く話しの種にもされ、成人式の日に久しぶりで再会した何人かは、まだ覚えていた。なにが怖かったのか。野良猫だけではない。遅れてきたのを見る皆の視線にも脅えていた。  夜遅くまで遊べば刺激も多いし、後ずさりすると奈美は思ったらしい。確かに興味があるけれど、怖い部分も多い。友達だ、との気持ちで同行しようとしていた。しかし、びびったら楽しめないよ、と勝手にそれから外された。  いけすかない、と奈美を思うのは当然。万引きなども興味本位で関心を持ち、偵察に行こうと、店員がおざなりな店にめぼしをつけた。  「見に行くぐらい大丈夫だって」  そんなに小心者でもないと言いたい。ただ、高校生を見れば、万引きすると先入観があるらしく、防犯カメラが設置されていたようだ。下見の実行をしてないと、美咲は思う。  異性や芸能界の噂話などほかのことでは楽しく遊んでいたけれど、奈美は勝手に親友と名乗り、要らぬことも言う。 「もう走らないの。ここの陸上部は楽しいらしいよ」 「中学で十分。ナッチもお節介すぎる」  昔はニックネームで呼んだのを思いだしてもいた。それを記憶の奥深くへ追いやる。幼いころ封印したなにかが苛立たせる。 「ただ一緒にいるだけなんだから。余計なことばかり喋るなら友達じゃない」 「ミキが言うなら、そうする」  案外素直にうなずく。さ、が発音しづらく、ミキと呼ばれていた保育園時代。小学校に入り、美樹と幹雄という二人の同級生が登場して、そのニックネームは使われなくなった。奈美だけはずっと、ミキで通して親友だと話しているのを、知り合いから聞かされた。  結局、陸上部へ入って、奈美たちとも疎遠になり、他人より淡い付き合いになった。       ☆  世間の怖さもたいしたことはないとの経験をやりそこなったわけである。  少なくとも、まだアイドリングしている心臓をフル回転させるほど家路も急ぐ用事がない。引き返そうと決める。中通りと呼ばれるところがあり近道だ。筋道はいくつかあるけれど、結局県道につながり遠回りになるし、日の沈むいまの時間だと、歩くには暗くて痴漢にあう確率も高くなる気がする。
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