(九)

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 そう思ったら、凌さんにとって私は何か力になれたのか、どうでも良いことかも知れないけど、急にそんなことが気になった。 「そう言えば秋菜さあ」 「ん?」 「今やり取りしてる賀茂屋(かものや)百貨店の担当って蔵本(くらもと)さんだっけ」 「うん。それがどうかしたの」 「あの人、ちょっと気を付けた方が良いよ」 「どういうこと?」 「大人しそうに見えて、かなり遊んでるっぽいんだよね。秋菜はそういう話振られたことないの」 「ないない。仕事の話しかしたことないよ」 「そうなんだ。でもあんまり良い噂聞かないから、個人的な話をされたら気を付けなよね」  珍しく美鳥がそんな忠告をしてくる。よほど気になる話を耳にしたんだろうか。  蔵本さんとは二年ほどのやり取りになるけど、商品に対して細かいこだわりや希望が上がってくることはあっても、個人的な話なんてした記憶はない。  だけどふと、私が大輔に夢中だったから蔵本さんのアピールに気が付かなかっただけかも知れないと思うと、恥ずかしさと情けなさで穴があったら入りたい気分になった。  自意識過剰かも知れないけど、思い起こせば食事に誘われたことが何度かあった気がして、それにはもしかして意図があったのかと背筋がゾワリとした。 「人懐っこい人だとは思ってたけど」  ボソリと呟くと、急に恐怖に似た気味の悪い感情が込み上げてきて不安になってくる。 「それ絶対狙われてるよ」 「えー。ちょっと気持ち悪いなぁ」 「ストーカー気質な人って居るからね」 「怖いこと言わないでよ」 「だって秋菜お人好しなんだもん。ガツンと言えないでしょ」  別にお人好しだなんて自覚はないけれど、確かに他人に対して強く出られるタイプじゃない自覚はある。ましてや取引先の人が相手となると、うちの会社の規模を考えると下手な手を打つのは良くないと思ってしまう。 「ちょっと背筋が冷たくなってきた」
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