(二)

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「毎日ではないですけど作らざるを得ないというか。恥ずかしいんですけど、それが一番節約になるので」 「なるほど。しっかりしてるんだね」 「いえ、そんな大したものじゃないので、本当に恥ずかしいです」 「そんなことないよ。凄いことだと思うよ」  感心しきった様子で鈴浦さんに何度も凄いと繰り返されると、私はますます恥ずかしくなって、黙々と手を動かして食事を口に運ぶ。 「ここの味付け、個人的には結構好みなんだよね」 「本当に凄く美味しいです。このオススメしてもらったサラダのドレッシングも好きな味です」 「良かった」  鈴浦さんは安堵した笑顔を浮かべると、ライトアップされた中庭に視線を移して、これからはクリスマスの時期だねと話題を変えた。  隣に座ってとりとめのない会話をしながら笑顔を浮かべる鈴浦さんは、一見すると派手で華やかな印象が強いけど、人当たりが良くて下品な感じも全然しない。  新婦に向かってあんな暴言を吐いた人だから、ちょっと怖い人なのかもと思ったけれど、やっぱりあれには深い事情があるんだろう。  それにしても鈴浦さんと話をしていると、昔から見知った相手のような安心感があって緊張しないで済む。  もしかしたらアパレル関係の仕事だと言ってたし、接客で他人との会話に慣れているのかも知れないなと、こっそり分析して一人で納得する。  不思議な雰囲気の人だと改めて鈴浦さんをチラリと横目で見ると、彼は温かい飲み物でメガネを曇らせていて、その姿が可笑しくて自然と笑ってしまって笑顔になる。 「鈴浦さんのおかげで、美味しいお食事が楽しめました。お礼になるのか分かりませんけど、先程のお話を聞かせてもらっても構いませんか」 「本当に愚痴なんだけど、大丈夫かな」 「構いませんよ」 「林原さんて良い人だね」 「そうでしょうか」 「そうだよ。でもお言葉に甘えさせてもらうね」 「はい。もちろん他言しませんのでご安心ください」
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