(三)

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「それで、聞いて良いのか分かんないけど、林原さんは今日どうしてあんなに辛そうにしてたの」 「鈴浦さんと似たような感じです」 「マジですか」 「はい。新郎の彼とは幼馴染みで、お互い三十まで独身なら結婚しようって話で、つい最近まで結婚式をどうするかとか、そんな話もしてたんです」 「え、そうなの」 「実はそうなんです、私も捨てられたというか。突然、同僚の女性との間に子どもが出来たからって言われて」 「それはあり得ないね」 「酷い話ですよね。私もう三十になるんですけど、誕生日を目前に約束が立ち消えた感じです」 「俺よりキツいじゃない。だってそんな状況でパーティーに招待したってことだろ。鬼畜すぎ」 「どうなんですかね。幼馴染みだし兄妹みたいなところもあって、向こうは私に対してそんな気も覚悟もなかっただけかも知れません」  答えながら体が震えてしまって、膝の上でギュッと拳を握ると、油断するとまた溢れてきそうな涙を堪えて鼻をすすった。 「ねえ、林原さん」 「なんでしょう」 「今日は目一杯、美味しいもの食べよう」 「そうですね」 「うん」  鈴浦さんはニッコリ笑ってから、よく頑張ったねと私の肩に手を置き、泣いても良いんだよと小さな声で囁いた。  そのあまりにも優しい声に、今日初めて会ったはずなに気を許し過ぎてると思いながらも、私は涙を止められなくて、肩を振るわせながら声を殺して泣いた。  その間、鈴浦さんはまた無言でハンカチを差し出して、私の背中をトントンと優しく撫でると、もっと賑やかな場所にしてあげれば良かったねと呟くから、心にジンときた。 (優しいなあ、もう)  初対面の鈴浦さんの口から、誰かに言って欲しかった優しい言葉が出たと思うと、辛さを理解してくれた嬉しさと、自分への情けなさで余計に涙が出てしまう。
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