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私にとって大輔への気持ちは、決して切れずに持て余すような腐れ縁なんかじゃなかった。
物心ついた時から大輔の言葉や表情に一喜一憂し、彼に彼女ができる度に落ち込んだ。だからこそ、大輔が私との結婚を視野に入れた話をする度に、どうしようもなく幸福で堪らなかった。
でもそれは受け身過ぎたのだと、今頃になって反省したところで現実を変えることは出来ない。
あまりにも子供染みた自分の情けなさに苦笑して、やっと気持ちが落ち着いてくると、鈴浦さんは私に配慮してなのか、パンケーキを黙って口に運んで自然を装ってくれている。
ただ側に居てくれるだけで、こんなにも心強いことがあるなんて、鈴浦さんには感謝してもし切れないなと反省して、私はようやく泣き止んで顔を上げた。
「鈴浦さん」
「ん?」
「ありがとうございました。泣いたらちょっとスッキリしました」
「そっか。我慢ばっかりはしんどいからね」
「なんだか私ばっかり。鈴浦さんだって辛い思いをされたのに、気遣っていただいてすみません」
「気を遣った訳じゃないから気にしないで。それに俺のことは良いよ。家に帰って一人で枕を濡らすから」
パンケーキを頬張りながらおどけた様子で鈴浦さんは笑うけど、最後の言葉はきっと正直な気持ちなんだろうと思うと一緒になって笑うことが出来ない。
「泣くのは格好悪いことじゃないと思います」
「……うん」
「だから鈴浦さんも、無理しないでくださいね」
「無理か。そうだね、無理してるのかも」
「鈴浦さん……」
「慰めてって言ったらどうするの」
「え?」
「パーティーに出るつもりだったなら、この後の予定はなくなったよね」
「ええ、まあそうですけど」
「もう少し、ゆっくり話したいんだけど」
呟くように答えると、鈴浦さんの手がそっと私の手に重なる。
「あ、の……」
「ダメかな」
ダメというのはどういう意味なんだろうか。
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