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確かに大輔は見た目は変じゃないし、好青年の部類に入ると思う。仕事だって大手企業に勤めてるし、人当たりが良くて面倒見も良い。
だけど距離が縮まると、優柔不断でいい加減なところも目立つし、財布の紐が緩かったりする。
(ダメだな。また大輔のこと考えてる)
この人が新婦を罵倒したあのシーンが強烈だったとはいえ、私もすぐそばに立っていたのに、大輔は私に気付くことすらなかった。
(目一杯オシャレしたんだけどな……)
それが悔しくて、酷く惨めな気分だ。
「お待たせ」
落ち込む私を現実に引き戻したのは、幸せそうな二人の姿が胸糞悪いと言い放ったこの男性だ。
新婦へのあの言葉から察するに、彼にも彼なりの事情があるのだろう。
改めて正面から見るとスラっとして背が高く、アンバランスなほどに小さな顔はすごく整っていて、笑顔になった彼はさりげなくハンカチを差し出して使えと言う。
「これ使って。そんな顔してたら、まるで俺が泣かせたみたい」
「ごめんなさい、大丈夫です」
咄嗟に指で滲んだ涙を拭うと、彼が差し出したハンカチを使わずになんとか笑顔を作る。
「あのさ」
「はい」
「ちょっとお茶、付き合ってくれないかな」
「お茶ですか」
「うん。まあお茶は口実で、そんな顔してる女の子を一人にさせたくないんだけど。あ、初対面でこういうの気持ち悪いか、ごめん」
「そんなことないです。気を遣わせてしまって、本当にすみません」
彼の気遣いにまた涙が滲んで、今度こそ差し出されたハンカチを受け取って目元を拭う。
「今日は冷えるみたいだし、あったかいお茶飲んでほっこりしようか」
「分かりました。お供します」
「うん。行こうか」
無造作に差し出された手を掴んで良いのか分からずに、咄嗟に苦笑してやんわりその手を拒むと、彼も不快になった様子はなく、二人で並んで歩く形で駅に向かった。
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