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「あそこの席が空いてるみたいだし、そこにしようか」
「はい。お任せします」
中庭が見える座席へ移動すると、マットレスを重ねたような変わったデザインの低めのソファーに戸惑いつつ、さっさとコートを脱いで座ってしまった彼に促され、私も慌ててコートを脱いで空いている隣に腰を下ろす。
「ご注文がお決まりの頃にまた伺いますね」
店員は温かいおしぼりを持ってくると、絵本のような冊子を置いて行った。
「これメニュー表なんだよ。かなり可愛らしいよね」
「そうなんですね。店内の雰囲気もですけど、こういう小物も素敵なデザインでワクワクします」
「良かった」
「え?」
「やっとちゃんと笑ってくれた」
「あ……の」
不意に微笑まれて僅かに動揺する。
彼との間に微妙な距離があるとはいえ、初対面の男性と隣同士、並んでソファーに座ってることを意識してしまう。
「ごめん、緊張させたかな」
「い、いえ。大丈夫です」
「そう? それなら良かった」
そう答えてようやく私から視線を外すと、彼はおしぼりで手を拭き、メニューを手に取ってなににしようかなとお腹をさすっている。
「あの。さっきのパーティーですけど、本当に抜けてきて良かったんですか」
温かいおしぼりで手を拭きながら、気を遣わせてしまったのではないかと隣の彼の顔を覗き込む。
「全然平気。見たでしょ? 逆にアナタまで巻き込んで悪かったね」
「とんでもないです。正直なところ助かりましたから」
「そうか。なら良かった」
パーティーで食べ損ねたと笑うと、彼はスイーツではなく食事を頼むらしく、私にもお腹が空いてるのではないかとメニューを手渡してきた。
「ここはご飯もスイーツも美味しいよ。実は会社がこの近くでね。誰にも教えてない秘密のカフェなんだ」
「そうだったんですね」
雑談をしながらおすすめのメニューを聞き出すと、まずは食事を頼むことにして、カウンターの向こうに立つ店員に声を掛けた。
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