(二)

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 そして湯気の立つ温かいドリンクが運ばれてくると、仕切り直して乾杯しようかと笑う彼と向かい合って、陶器のタンブラーで乾杯する。 「初めまして、で良いのかな」 「どうなんでしょうね」  挨拶に困って笑い合うと自然と緊張がほぐれて、ようやく自己紹介でもしようかと彼が小さく咳払いした。 「俺は鈴浦(すずうら)(しのぐ)って言います。仕事はアパレル関係です」 「ご丁寧にありがとうございます。私は林原(はやしばら)秋菜(あきな)と申します。雑貨を扱う仕事をしています」 「早速だけど、林原さんはどうしてあのパーティーに?」 「えっと……」 「ああ、ごめん。言いたくないなら良いんだ。それより俺の愚痴、聞いて欲しいかな」 「愚痴ですか。それってあの発言と関係あったりするんですかね、やっぱり」 「そう」 「私で良ければお聞きしますよ」 「ありがとう。でもまずは食事を楽しもうか。せっかくの美味しい料理が台無しになると嫌だもんね」  鈴浦さんがそう言ったタイミングで、テーブルに料理が運ばれてきた。  私が頼んだのは茄子がたっぷり入ったボロネーゼソースのグラタンと、味噌が決め手という自家製ドレッシングの温野菜のサラダ。  一方、鈴浦さんはビーフシチューとフォカッチャ、それにプレーンオムレツと、私と同じ温野菜のサラダを頼んで結構なボリュームだ。 「それじゃあ、いただこうか」 「はい。いただきましょう」  初対面の、しかもめちゃくちゃかっこいい男性相手だというのに、鈴浦さんの人当たりが良さそうな雰囲気にすっかり気が抜けてしまい、緊張もほぐれて普通に食事をし始める。  夜風に当たってだいぶ体が冷えていたこともあって、熱々のグラタンが身に染みる。 「んー。美味しいです!」 「でしょ」  昼と夜では食事のメニューが違うらしく、鈴浦さんはいつもなら昼間にパスタを食べることが多いそうで、私は大抵手作りした弁当だと言うと、彼は驚いた様子を見せた。 「毎日お弁当作ってるの?」
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