異変

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異変

 駅前の広場で、うつむいている一人の女性がいる。  彼女は、瞳に今にも零れ落ちそうなほどの水をためていた。  彼女の手足は、震えていた。昼間の熱気が抜けきらない、薄明るい暑い夜の街で震えていた。そんな彼女の異変に気付く人なんていない。街ゆく人は、手に持つスマートフォンにすっかり気を取られているようだった。  その様子に彼女は、今にも氷付きそうだった。強い不安と悲しみが、彼女から熱を奪った。彼女の心の氷は、全身を凍り付かせるようだった。次第に彼女は動かなくなった。そんな彼女を見る目は、とても冷たく、さらに彼女を氷つかせるばかりだった。  ここには、彼女を温めてくれる人なんていなかった。そして、彼女もそれを理解していた。きっと家に帰れば、温めてもらえるとしてももう動けそうになかった。彼女は、どうすることも出来なかった。  静かな夜の街に、彼女のスマートフォンの音だけが響いていた。
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