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木枯らしが吹いていて、窓から見える銀杏の木の葉も激しく揺すられていた。そして、歩道は、黄色に染まっていた。
温かいはずの室内に、まるで外にいるような厚着をしている女性がいた。
彼女は、休み明けの月曜日だというのにまるで木曜日ように疲れているように見えた。それは、彼女が体調を崩してしまっていたからだった。社会人として体調管理は出来て当然のことであった。それでも、常に完璧でいることは、とても難しいことでもあった。
そして彼女は、一年目であるから、なかなか言い出すことが出来ずにいた。それでも、パフォーマンスの低さを誤魔化すためには、いつも以上に長い時間働かないといけないと思っていた。そして彼女は普段から表情がないからこそ、誰も彼女の異変に気付かなかった。
だから、彼女は、指導係の先輩と二人で、同じフロアの他の社員が帰った後も残業をしていた。
「もしかして、体調悪いか」
「大丈夫です」
「それなら、いいんだけどさ。今日はそろそろ帰ろう」
「はい」
二人は、仕事を終わらせるとエレベーターに乗った。彼女は、もう帰れるという安心感からなのか、今までの疲れが出てきたのか力が抜けて思わず壁に寄りかった。それを何も言わずに彼は、見つめていた。
彼が、警備員との話を終えると、彼女は不安定な足取りで駅に向かった。そんな彼女に向かって彼は、思わず声をかけた。
「やっぱり体調悪いんだろ。気づかなくて無理させて悪かった。この感じじゃ駅まで歩くのも辛いだろ。送るよ。今日は車で来たから」
「いえ、大丈夫です」
「そりゃ、よく知らない上司に送られるのは気持ち悪いよな。ごめんな」
「そんなことで謝らないでください。先輩に迷惑かけたくないだけです」
「そっか。俺は、それくらいのことで迷惑だなんて思わないけどな。ただ、お前が気になるなら強要はしない。無理はすんなよ。仕事だって一日二日くらいなら休んだって問題ないんだしさ」
「先輩、やっぱり送ってもらってもいいですか。思っていたよりも寒くて」
「いいよ。じゃあ車の中では暖房かけるけど、暖まるまでは俺の上着着てな」
彼がそう言うと二人は、向かいの駐車場に入っていった。
いつもは冷たい彼女の手も、ほんのりと熱を持っていた。
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